日本の「もしトラ」対応、実はシンプル

秋山 トランプから見たときに、自分たちをどういうふうに使ってもらうと彼にとってメリットがあるカードなのかを考えれば、どう対応すればいいかがわかるということですね。

渡部 ええ、気まぐれもありますが、首尾一貫しています。現象だけ見ると、よくわからないかもしれませんが、自分の利益、訴訟をどう免れるかだけを考えている、というところを押さえれば、見誤ることはないと思いますね。外交経験者ならこんなことは慣れっこです。米国が民主主義国家だと思うと誤解してしまいますが、独裁国だと思えば、普通のことです。

秋山 日本は、在日米軍の費用負担をこれ以上求められたら苦しいということもあると思いますが、そのあたりはいかがですか。

渡部 トランプはお金の計算があまりできない人(笑)で、実は日本は既にかなり費用負担している。100%出せと言われても出せないことはないが、トランプは守ってやっているんだからもっと出せと、「用心棒」的な発想で要求してくるかもしれません。

 ただし、日本は自分たちの防衛能力の強化のために、岸田首相は27年度に防衛費をGDP2%に増額すると言っている。これもかなり苦しいのですが、逆に、「トランプが言っているから」と、2%を達成するための外圧として使ばいいでしょう。

 さらにトランプは3%と要求してくるでしょうが、日本としては「わかった、ただ、今はとりあえず2%で、3%は将来目標だ」と言えばいい。そのうちにトランプの任期が終わるでしょう。

 増えた防衛費は、新しい装備、人件費や自衛隊の待遇向上に使うことになると思いますが、重要なのは、自衛隊基地の防備の強化です。有事の際に、中国からミサイル攻撃を受けた際に、戦闘機が飛べなくなれば、日本の領域を守れません。現在の自衛隊基地の防護力を高める必要があります。中国からのミサイルをけん制するためには、日本も中国に届くミサイルが必要であり、米国製巡航ミサイル・トマホークの導入を決定しました。これは相当な費用になる。日本の防衛費の増加は、米国の軍需産業を潤わせるということを、繰り返し、トランプに伝える必要がある。トランプの目標は、会社の社長と一緒で、米国が赤字にならずに、収益を上げればそれでいい。そう考えてくれるのは、ある意味わかりやすく、日本がやれることは多いと思います。

 うまく機嫌を取って、おだてて、気持ちよくして、お金の面ではこれだけ米国が得をしますよと言うんです。安倍元首相はトランプに会うときには必ず、日本の投資で米国でこれだけの雇用が生まれているというような数字を準備して伝え続けていました。言い続けないと、トランプはすぐ忘れるので何度も何度も話をしたそうです(笑)。

秋山 本当に、オーナー企業の社長に取り入る方法と全く同じですね。「社長、うちとの取引で、社長はこれだけ得をしてるんですよ、前に言ったでしょう」「そうだったかね」「この帳簿にちゃんとあるでしょう、忘れないで下さいよ」みたいな(笑)。日本の外交筋もそこは押さえているわけですね。

渡部 今回の訪米で、岸田首相は、議会演説を成功させましたが、共和党側の協力もあった。共和党のウィリアム・ハガティ上院議員は、トランプ政権下で駐日大使になった人で、トランプとの関係が非常に良く、日本の味方になる人です。

秋山 最後の駄目押しですが、トランプ、バイデンは今のところ五分五分。とはいえ、どちらが優勢ということはあるのでしょうか。

渡部 一般的にはトランプ優位ですが、外交筋はバイデンにも勝機があると見ているようです。ただ経済は重要です。インフレが進行すると現職不利、トランプ優位です。浮動票は基本的に所得が低い人が多く、物価高で生活がかなりの影響を受けるからです。今まで米国はインフレを抑えつつ、景気も維持できていた。今、景気は維持できていますが、インフレを抑えきれていない。あとは高齢リスクですね。二人とも高齢ですが、バイデンが候補者同士のディベートで、致命的な間違いをすれば、高齢化のせいにされて批判が集まり、不利になります。

秋山 刺激的な解説で、大変おもしろかったです。今回のお話で、押さえるべきポイントがはっきりし、こんがらがった状況の視界が晴れました。有難うございました。第三者的に考えれば米国政治は面白いですね。

渡部 少なくとも日本の政治よりはずっと面白いでしょう(笑)。

(本文敬称略)

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)