人間関係が大きく変わる、通学時間も長くなる、授業や部活についていくのが大変になる……。高校進学に伴う環境の変化が心に及ぼす影響は「高1クライシス」と呼ばれている。学習や生活面での変化に適応できず、心の不調を起こしてしまう新入生は決して少なくないのだ。発達心理学者が、新生活で起こる可能性がある「心のつまずき」を丁寧に解説していく。※本稿は、飯村周平『高校進学でつまずいたら 「高1クライシス」を乗り越える』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。
プロフィール
Aさん……入学早々、風邪で4日ほど学校を休んでしまった。登校した頃にはすでグループができあがっており、疎外感を感じている。性格は素朴でシャイ。家から学校まで片道1時間かかる。
B君……中学からサッカーをしており、高校の部活でもサッカーを選択したものの、ハードなサッカー部の練習に疲れて授業中に居眠りするうちに授業についていけなくなった。部活と勉強、どちらも本人が納得いく結果を出せておらず自信をなくしている。
Cさん……入学早々、すぐに同じクラスの仲の良い友人ができた。また学校も家から近いため通いやすく、通学のストレスも少ない。姉が2人いるため、高校生活のイメージもできていた。温厚な性格。
高1クライシスの要因(1)
「同時多発的な環境の変化」
3名の新入生は、クラスは違いますが、同じ高校に入学していました。同じ学校であるのにもかかわらず、なぜこうした「学校適応感」(注:「学校生活がうまくいっている」という主観的な感覚。「学校が好き」「学校が楽しい」といった気持ちも含まれている)の軌跡の違いが生じたのでしょうか?
この違いに関与する要因は無数にありますし、しかも、それらの要因はお互いに複雑に入り組んでいますから、正直なところ、説明は簡単ではありません。とはいえ、これを学術的な根拠をもって説明するのが、発達心理学者としての私の仕事です。
1つの要因は、「高校に進学することは、さまざまな学校環境の変化が同時多発的に重なるので、それに対処したり慣れたりするのに負荷がかかる」というものです。通学方法が変わったり、学校の規模(生徒数など)や校則が変わったり、高校生として新たな役割を期待されたり、友達や教員との関係を再構築したり、授業の難易度や専門性が高まったり――その他にもさまざまな変化が同時に起きるわけです。
そのため、入学してしばらくの間は、新しい学校環境に適応するための課題に直面する時期(移行期)であるとも言えるでしょう。
高1クライシスの要因(2)
「個人がもつ特徴の違い」
もちろん、例に挙げた3名は、それぞれクラスが違うので、厳密にはそれぞれ異なる経験をしているはずです。とはいえ、同じ高校に入学しているので、共通した学校環境の変化も経験しているでしょう。同じような経験をしても、3名の心の状態に違いが生じたのはなぜなのでしょうか。
これは2つ目の要因、つまり新入生たちがもつ特徴(ここでは「個人要因」と呼びましょう)の違いから考えることができます。例えば、個人要因の1つとして、性格を挙げてみましょう。ここでの性格とは、「その人自身を特徴づける心や行動の傾向」を指すものだと考えてください。
人の性格は、おもに5つの因子の組み合わせでうまく説明できるとされています。少しだけ解説すると、5つの因子とはそれぞれ「外向性」「神経症傾向」「協調性」「開放性」「勤勉性」と呼ばれるものです。5つの因子があるので、「ビッグファイブ」と呼ばれたりもします。