より具体的に言えば、個人の要因(特性やニーズなど)と進学後の環境が「マッチング」(適合)しているかどうかが、心の状態に影響すると考えられています。専門的には「段階――適合理論」と呼びます。

縦の軸が学校適応の高さを表し、上に行くほど「うまくいっている」という感覚が強いことを意味する。横の軸は時間経過を表している縦の軸が学校適応の高さを表し、上に行くほど「うまくいっている」という感覚が強いことを意味する。横の軸は時間経過を表している。 拡大画像表示

 上図は、この観点から、改めて高校進学前後における「学校適応感」の軌跡を描いたものです。中央の線は、個人要因と学校環境の「マッチング」の観点から、予想される「学校適応感」の軌跡を示しています。高校に進学するまでの線は、説明の便宜上スタート地点をそろえて1本で描かれていますが、進学後は3本に分岐することが見て取れます。今回はこの分岐に注目してみましょう。

 まずは、入学後に「学校適応感」が下がっている軌跡に着目してください。このケースでは、個人の要因と学校環境がうまく「マッチング」していないために、「学校適応感」が低下していると考えられます。

 例えば、Aさんの場合は、入学後に風邪をひいて欠席が続くという「アンラッキー」も重なりました。シャイな性格の彼女は、入学を通じて初対面の人だらけのクラスに入るのも緊張します。自ら積極的に初対面のクラスメイトに話しかけるのも大変です。

「頑張って話かけよう」と頭の中でぐるぐると考えるだけでも疲れてしまいました。しばらく欠席が続き、すでに友達グループがつくられ始めた状況では、その大変さに拍車がかかるのも仕方がありませんでした。

 また、B君の場合は、強豪サッカー部でのハードな練習に対して、身体的な特徴やスキルがマッチせず、さらに向上心が強く誠実な性格も相まって、心身ともに疲弊しやすい状況になってしまったようです。Aさんと違い、クラスメイトとの関係には困ることはありませんでしたが、部活は学業にも悪影響を与え、進学後に難易度の上がった授業についていくことが難しくなりました。

 もちろん、これらの背景以外にも、彼らの「学校適応感」に影響を及ぼした個人要因や学校環境の変化はたくさんあります。とはいえ、AさんとB君にとって、ここで取り上げた個人要因と学校環境のミスマッチが、彼女らの「学校適応感」にとりわけ大きな影響を与えたようです。