空自にE2C早期警戒機を斡旋した
カーンの資金は政界工作に投入?

 そんな“航空機販売ゲーム”を、世間が思っているよりはるかに巧みにやりおおせたアメリカ人が、何人かいた。

 コパカバナの常連、ハリー・カーンもその1人。『ニューズ・ウィーク』の元海外特派員で、戦後のアメリカ対日評議会(ACJ。編集部注/日本の共産化を危惧する米共和党系の圧力団体)のロビイストをつとめていた人物である。

 ワシントンに本拠地を置くカーンは、岸信介元首相と親交をあたためていた。彼のために英語の家庭教師もつとめている。

 ACJ時代には、岸の復活を助けたことがある。岸の実弟の佐藤栄作は、1964年から72年にかけて日本の首相をつとめた人物だ。自民党の佐藤派閥は、その後の首相の大半を輩出している。

 カーンは〈グラマン〉(編集部注/アメリカの航空機メーカー)に、コンサルタントとして高給で雇われた。グラマンの目当ては、彼の自民党トップとのコネクションだ。カーンは同時に、〈日商岩井〉とも極秘の契約を結んでいた。

 カーンはこの立場を利用して、グラマンのE2C早期警戒機を、日商岩井を通じて日本政府に斡旋している。彼の懐には、賄賂がたっぷりと転がり込んだ。グラマンから日商岩井に支払われた手数料の、なんと40パーセントだ。

 一部は、松野頼三元防衛庁長官をはじめとする日本の政府高官に、“謝礼”として渡されたとされるが、本人たちは関与を否定している。

 カーンは結局、グラマンを首になった。グラマンの重役に感づかれ、証券取引委員会に通報されたからだ。

書影『東京アンダーワールド』『東京アンダーワールド』(KADOKAWA)
ロバート・ホワイティング 著、松井みどり 訳

 とはいえ、日本のマスコミは仰天し、彼を〈青い目のフィクサー〉や〈白い黒幕〉と呼んで、雑誌に特集を組んでいる。東京の権力中枢にもぐり込むために、日本企業がアメリカ人を雇った例は、きわめてめずらしいからだ。

 こうした一連の出来事は、日本人におなじみの人生訓にあてはまる。

 タテマエとホンネ――

 大ざっぱに言えば、「ひとまず世間体を考えてものを言い、それから陰で好きなことをしろ」というような意味だ。

 もちろん、どこの国民であろうと、人間の性格には往々にして二面性がある。しかし、日本人ほど行動が矛盾に満ち、それを隠そうともしない国民はほかにない。表向きの「和」を何より大切にする国だからだ。