精肉処理場の経営者もスタッフも
鑑定人までもが日本ハムの人間だった

 何より驚いたのは、精肉処理場でのやり方だ。豚を潰したあとに、はじめて価格が提示される。作業員が豚を鎖でつり上げ、喉を切って頸動脈を断つ。それからベルトコンベアに載せて、脚を切断し、皮を剥ぎ、縦に二等分。

 この段階ではじめて、鑑定人が肉質をチェックし、価格を決定するのだ。安すぎると売り手が思っても、死んだ豚を連れ帰るわけにもいかない。

 規則もいろいろやかましい。胴回りや体長に規準があるし、脂肪の量にも上限がある。違反者には罰金が科され、最終的な売値に響いてしまう。豚の体長が長すぎたり、短すぎたり、太りすぎたり、やせすぎたりしただけで、減点されるのだ。

 遅まきながらわかったことだが、鑑定人にも罰金のノルマがある。したがって、ニック小泉(編集部注/ザペッティは帰化にあたって、ニコラ小泉を名乗った)が格好のターゲットになるのは時間の問題だった。すべてが終わるころには、ニックの儲けはほとんどゼロになっていた。

 精肉処理場の経営者もスタッフも、鑑定人までもが一様に、日本の大手豚肉製造業者〈日本ハム〉の人間だと知ったとき、ニックはなおさら納得した。

 最初のころはザペッティも、精肉処理場の人間にできるだけプレゼントをするようにした。それが日本の習慣だと、何度も聞かされていた。

 プレゼントは人との絆を強くする。社会的にも、仕事の上でも、人間関係をなめらかにする。だからこそ年に2回、年末と夏に、日本中の人々がプレゼントをしまくるのだ。自分たちの社会生活や仕事上、大切な人々に、石鹸、フルーツ、スコッチウィスキーなどを贈る。

 実際、日本の家庭の半数は、石鹸を買ったことがない。どうせギフトシーズンに、たっぷり送られてくるからだ。