現世は不条理だらけだが
死ねば救済される?
橋本努 著
研究者たちの成果をめぐるマタイ効果について、面白い研究がある。研究者たちの論文の生産性は、研究の初期段階で、どれだけの数の論文を書いたかによる、という実証研究である。(4:山崎(1982))研究者たちの生産性は、初期の段階で大きく決まってしまう。ではどのような環境条件のもとで、研究者たちは最も実り豊かな研究成果を上げるのか。その条件をうまくデザインできたなら、最大限の成果を引き出すことができるだろう。
他方で、マタイ効果には、許容しえない負の連鎖もある。例えば、借金を重ねて自己破産に追い込まれるようなケースである。この場合、政府は自己破産した人を、自己責任だと突き放さずに救済すべきではないか。あるいは、借金をする際のルールを変更することで、負のマタイ効果を抑制することもできるだろう。例えば、多重債務の禁止といったルールを導入すれば、自己破産する人を減らすことができるだろう。それとは逆に、許容しうる負のマタイ効果もある。例えば、働く人が減って経済が停滞する場合、そこに生まれる負の連鎖は、ある程度までは仕方のないことかもしれない。
マタイ効果には、いろいろな対処法がある。けれども、制度的にはどうにもならないマタイ効果もある。例えばキリスト教では、「(霊や魂において)貧しき者こそ幸い」であると言われる。というのも貧しい人は、富んだ人よりも、自分の魂が救済される可能性を手にしているからである。世の中には、許容しえないマタイ効果があるといっても、宗教の視点でみれば、大切なのは死後の世界であり、死後の魂の救済である。マタイ効果から私たちが学ぶべきは、この世の不条理である。この不条理のもとで、私たちは自分の魂が救われることを、いかにして確信することができるのか。それが本来、問われるべきかもしれない。