SDVの新しい体験提供では
データがものを言う
とはいえ、日本を含む既存の自動車メーカーはいずれも、テスラや新興の中国EVメーカーには後れを取っており、どれだけ早く追いつけるかが焦点となっています。その鍵であり、課題ともなっているのは、やはり「ソフトウェア」です。
BEVの走る・曲がる・止まるといった性能面では、日本の従来のメーカーも引けを取らないものづくりができます。ところが、BEVは内燃機関のクルマに比べて部品点数が3分の1といわれてるほどである意味、開発が“難しくない”のです。そこで、いかに電力効率を良くするかやソフトウェアのノウハウの部分が重要となります。
テスラや、中国スマートフォン大手のシャオミが手がけるEVを見ると、スマホとの連動は当たり前ですし、ドライバーを認識して座席をベストポジションにするといった機能も付いています。一方、エンジンをオンにするスイッチやパーキングブレーキといった、ガソリン車では必要でもスマート化したクルマでは不要な機能が消えています。座席に座ってハンドルを握り、アクセルをふかせば動き、ブレーキをかけて手を離せば動かなくなるといった、新しい移動の体験が生み出されています。
こうした体験の提供は、新興メーカーがゼロから考えて組み上げるからこそ、成せる技です。ほかにもホームオートメーションとの連動など、さまざまな新しい体験がSDVでは考え得るのですが、実装しようと思うと既存のメーカーにはなかなか実現しにくいのではないかと思います。
結局は体験、ということでは、もうひとつ、既存メーカーには不利な点があります。それはクルマを販売した後、所有者がどのようにクルマを活用しているか、データを今まで取れていなかったということです。最近でこそ、さまざまなデータを取得する試みが各社で行われるようになりましたし、AFEELAのような新しいSDVではデータの活用が当然考えられていると思いますが、長らくクルマを作ってきたからといって過去の蓄積があるわけではないことは、問題の1つといえるでしょう。
さらに日本に関しては新しい技術に対する社会の受容性が低く、クルマが電動化し、ソフトウェア化することを楽しいと感じる人が少ないのではないかと危惧します。自動運転も先進運転支援システムも、過渡期の技術には危ういところがつきものですが、AI活用を考慮すると「ヒヤリハット」の事例も含めて重要なデータになるはずなのです。今後のSDVの時代においては、このようなデータを蓄積し、活用することが必須になっていくでしょう。
(クライス&カンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)