うつ病というと心の病というイメージが先行するが、高齢者がうつ病になると、食欲不信や脱水を起こしたり、免疫機能が低下するなどして、からだの疾患リスクへと直結してしまうという。うつ病予防に有効なセロトニンの分泌を促す習慣を、“高齢者専門”精神科医が解説する。本稿は、和田秀樹『老いたら好きに生きる 健康で幸せなトシヨリなるために続けること、始めること、やめること』(毎日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。
メンタルヘルスを良好に保てば
がん細胞が減って長寿につながる
私の本業は、高齢者を専門とする精神科医です。
アンチエイジングや内科診療について書いたり話したりすることもありますが、アンチエイジングは自分の老化予防のため、内科はあまりに高齢者に対する治療がステレオタイプで、ひどいと思うので勉強を続けていますが、本職はあくまでも精神科医です。
精神科医として高齢者の心の問題を取り上げているのは、高齢になるほど心と体の結びつきが強くなるためです。要するに高齢になるほど、心が弱ると体も弱りますし、逆に体が弱ると心も弱ってしまうのです。
うつ病に罹患して亡くなる際の原因は、若い人の場合、自死がほとんどですが、高齢者の場合、体力の低下が原因で亡くなってしまうということも珍しくありません。なぜなら、高齢者がうつ病になると食欲不振になり、簡単に脱水を起こしてしまうからです。
脱水というのは血液中の水分が足りなくなる状態で、血液濃度が高くなるため脳梗塞や心筋梗塞を起こしやすくなりますし、脱水症状があると免疫機能も落ちて肺炎も起こりやすくなります。その結果、最悪死に至ることもあり得るというわけです。
精神神経免疫学という分野において、かなり前から、心の状態が悪くなると免疫機能が低下することは問題になっています。
たとえばシドニー・ジズークという精神医学者(現・カリフォルニア大学サンディエゴ校精神科教授)の研究では、うつ病になるとNK(ナチュラルキラー)細胞の活性が半分程度に下がるとされています。
このNKというのは体内にできた出来損ないの細胞を掃除してくれる免疫細胞で、この細胞の活性が高ければがんになりにくいとされています。ところが順天堂大学医学部特任教授の奥村康先生らの研究では、この活性が40代になると20代の半分、70代になると10分の1に落ちるというのです。
もともと免疫活性が低い高齢者ほど心の具合が悪くなることは危険です。免疫活性がさらに下がり、そのダメージは大きいからです。
アメリカのように死因の第1位が心臓病ではなく、がんで亡くなる人が多い日本では、メンタルヘルスを良好に保つことががん細胞を減らし、確実に長寿につながると私は信じています。