重ねられた手写真はイメージです Photo:PIXTA

働き方改革関連法が施行されて以降、多くの企業が社員の労働時間削減に力をいれている。そのなかには、改革に取り組んでいてもまったくスムーズにいかない…と悩んでいる経営者もいるだろう。かつて不夜城と呼ばれた電通社員の時短に取り組み、約2年間で残業時間の60%減を果たした小柳氏によると、企業の改革にはあるキーパーソンを味方につける必要があるという。時短改革の鍵を握る人物とは?※本稿は、小柳はじめ『鬼時短:電通で「残業60%減、成果はアップ」を実現した8鉄則』(東洋経済新報社)の一部を抜粋・編集したものです。

日本企業の経営者は
工場の効率化ばかり見ていた

 戦後から高度成長期を経てバブル期に至るまで、日本の製造業は世界を席巻してきました。その力の源が、「工場」で徹底的に行われてきた効率化であり、時短でした。

 人間や機械の動作の一つ一つを工程の最小単位とし、人が立ち上がる回数や、モノをもって移動する距離を減らす、機械の動作を高速化する、などを具体的な工程の改善ターゲットとしました。工場の時短は日本のお家芸であり、日本の経営者たちはその能力を徹底的に鍛えてきたわけです。

 それに対して「オフィスの時短」については、日本の経営陣はまるっきりサボってきたと言っても過言ではありません。具体的な仕事の進め方を、すべてオフィスの現場に丸投げしてきたのです。

 そのシワ寄せは、すべて現場に行きます。それぞれの会社の現場のそれぞれの部署が、手探りで業務プロセスを構築し、ルールをつくり、ミスを減らす努力をせざるを得なくなりました。

 その結果、現場それぞれの部署には、そこのプロセスを取り仕切る「主」がいるようになったわけです。

 この「主」たちの同意なしには、時短に限らず、いかなる改革もけっして成功しません。

社長も役員も把握していない
手順を知っている「現場の主」

 2001年12月、アメリカの大手エネルギー企業エンロンが、巨額の不正経理による粉飾決算がもとで破綻しました。「エンロン・ショック」です。

 捜査当局が全容を解明すべく、社内電子メール150万件を調査すると、意外な事実が判明しました。粉飾決算に関する具体的な手法の指示の出どころは、社長でも経営陣でもなく、ある1人の現場の社員だったのです。具体的な作業の手順は、「この件はAさんに聞いてくれ」という感じで、現場の特定の社員にまかせっきりになっていたといいます。

 現場の「主」とは、こういう存在です。職場では気配を消しているくらい目立たない方も多い。

 誰からも信頼されていて、さまざまな相談にイヤな顔ひとつせずに答えてくれる。

「この書類はこう書き直せば文句を言われない」「このまま出すと差し戻されちゃうから、あの書類もつけといたほうがいいよ」

 仕事の裏の裏まで知り尽くした「主」の存在によって、日々のプロセスが円滑に回っているのです。