丸山 はい。虫コブは組織の異常発達によってできるものですが、親が卵を産むときに植物に特殊な化学物質の注射をすることもあるし、ふ化した幼虫本人がつくり出すこともあります。

大きい卵を1個生んで
確実に「成虫」にする

養老 そうそう、地下に生息するチビゴミムシを、カタコンベ(地下の墓所)を使って飼育したフランスの研究者がいて。彼の研究によると、その地下に生息するゴミムシは普通の昆虫に比べて大きい卵を1個だけ、ぽこんと産むんだって。どうしてだと思う?

中瀬 ギリギリまで成長させるため、ですね。

養老 そのとおり。卵から生まれたらエサを捕らずに短期間で蛹になり、そして成虫になるためなのね。地下という環境はそもそもエサが捕りづらく、栄養が乏しい場所でしょう。だから、ただ卵からかえっても、自分でエサが捕れなければ死に絶えていく。いくらたくさん卵を産んでも、このような環境では成虫になる確率がとても低いわけ。だったら最初から卵の数を絞って栄養を集中させ、なるべく早く成虫にすればいい、ということです。

書影『昆虫はもっとすごい』(光文社)『昆虫はもっとすごい』(光文社)
丸山宗利、養老孟司、中瀬悠太 著

丸山 地下は、天敵に襲われる可能性が少ないので非常に安心・安全な場所ですが、いかんせん栄養のあるエサが少ないんですよね。せいぜい、細菌や微生物、ダニやトビムシのように微小な動物を食べるしかありませんから。

中瀬 いろいろと子育てをする昆虫を見てきましたが、昆虫全体としては、育てず見守らず産みっぱなしが基本です。産んだら「あとはそれぞれ自力で生き延びてくれ」と放り出す。人間と真逆の育て方ですね。

丸山 原始的な昆虫は、だいたい産みっぱなしです。というのも、人間を見ていてもお母さんは大変だなと思いますが、子供を育てることは非常に高度な行為なんですね。同じ巣に棲んでいるアリでも単純な防御行動しかしない兵隊アリの脳は小さいままで、子育てをしている働きアリは脳が発達しています。アリを見ていると、家族をつくる、子供を育てるというのは非常に脳を使う複雑な行動なんだと感じますよ。