ほとんどの昆虫は卵を産んだあとは放置しっぱなしだが、中には卵を守ってふ化させたり、幼虫になっても子育てを続ける昆虫がいる。さらには哺乳類のように“お乳”を子に与えるゴキブリも存在するというのだ──。アリが専門の学者・丸山宗利、無類の虫好きでおなじみ養老孟司、寄生虫研究者・中瀬悠太の3人が昆虫の魅力を語りつくす!本稿は、丸山宗利、養老孟司、中瀬悠太『昆虫はもっとすごい』(光文社)の一部を抜粋・編集したものです。
しっかり子育てをする
森のゴキブリ家族たち
丸山 無事に連れ合いを見つけて交尾をしたら、いよいよ子育てです。といっても、ほとんどの昆虫は卵を産んだらあとは放置。「下手な鉄砲数打ちゃ当たる」と言わんばかりに、産む卵の数で勝負するわけです。一方で、卵で産んで、守ってふ化させて、幼虫になってからもしっかり育てている昆虫を見ると、つい人間に重ねてしまいます。
養老 最近はペットゴキブリも人気が出てきているけれど、あれも子育てをしっかりするんだよな。
丸山 あ、ヨロイモグラゴキブリですね!私も飼っています。10センチ弱まで成長する、カブトムシより大きいゴキブリです。
養老 あれね、ゴキブリとは思えない、ゆっくりとした歩き方をするんだよね。
丸山 ええ。ヨロイモグラゴキブリは地中にトンネルをつくって夫婦で生活するゴキブリです。そして、子供を産んだら、自分たちでエサをあげて育てる。地上から落ち葉を引きずってきて、巣穴で一緒に食べるんです。
養老 こういう森に棲むゴキブリは、「集団」というより「家族」という感じが強いな。
丸山 あと、最近の研究では、シロアリはゴキブリの進化形だということもわかってきました。
養老 ゴキブリと言うとみんなすぐ拒否反応を示すけれど、ゴキブリの9割9分は森の中に棲んでいるでしょう。
丸山 オオゴキブリなんかは、朽木や枯れた木の中に居を構え、親子でつましく暮らします。こういうゴキブリは、人間と一緒で繁殖力も低いんです。しかも、幼虫の成長に何年もかかったり、エサを砕いて幼虫にあげたりと、1匹1匹丁寧に育てるため何かと手もかかります。
そして、この集団で暮らすゴキブリが進化したのが、集団で巣をつくるシロアリです。つまり、家族の形態をより強く大きく組織化した存在がシロアリなんですね。シロアリは明確な役割分担や序列をつくったり、子供同士でも助け合うようになったりと、進化の過程でどんどん社会性を強めていきました。