丸山 ああ、たしかに。ハエは生みっぱなしだね。

養老 やっぱり子育てをするのは社会性の昆虫しかいない。見張るだけだったり、当座のエサを用意したりするくらいだったらフンチュウもやっているけれど。

ほかの昆虫に卵を産みつけ
子に「資産形成」する昆虫も

養老 オーストラリアでは、フンチュウがカンガルーの糞を使って小さくて可愛い玉をつくっていてね。あれはおそらく、中に卵か子供が入っているんでしょう。石をひっくり返すと、マンマルコガネくらいのサイズの糞の玉とフンチュウが、ちょこんと並んでいる。

丸山 昆虫には未来予測はできませんから、対処できるのは「今目の前で起こっていること」だけです。ただ、わが子に関しては、ほかの昆虫を狩ってそれに卵を産みつけることで未来の食料にしてあげることがありますね。

 たとえば、ドロバチやジガバチといったカリバチの仲間。カリバチは狩りをしたら、獲物を殺さず、麻酔をかけて保存します。昆虫は死ぬとすぐに腐ってしまうので、麻酔をすることで動きをすべて止めてしまうんです。仮死状態にして、栄養分を保ったまま巣に持ち帰る。そして、その獲物に卵を産みつけるわけですね。幼虫はふ化したら、殺さないようにちょっとずつ食い進む。で、最後に、とどめをさすように一気食いです。

中瀬 途中まで、まさに生殺しですよね。人間から見ると、残酷かもしれません。

丸山 この一気食いのところで幼虫がみるみる大きくなるのが、なんとも言えません。また、オトシブミというゾウムシの仲間は葉っぱをきれいに丸め、その中に卵を産みます。そうすることで、葉っぱの中でふ化した幼虫はその発酵した葉っぱを食べて成長できるんです。産む前にエサ場をつくってあげるのも、ひとつの遺産と言えるでしょう。

養老 植物につくる虫コブ(虫癭(ちゅうえい))もあるでしょう。タマバエ、タマバチやアブラムシなんかが寄生してできるコブね。植物内部に卵を産みつけて、植物を変形・加工させてコブをつくり、幼虫、蛹とそれを食べながら成長していく。