1カ月で7キロを落とした母
これなら移植手術ができる
川崎市の武蔵小杉駅北口ロータリーで母を待つ私は、合格発表の掲示板を見上げる受験生の心境だった。2019年4月25日、聖マリアンナ医科大学病院腎移植外来を受診する日がやってきた。
医師に「体重やたんぱく尿などの改善が見られなければ、移植は厳しい」と言われて1カ月。現れた母の姿は――。
まるで別人だった。
身長148センチの体は一回りすっきりとして、顔つきもシャープに見えた。あっけにとられていると、車の後部座席に乗り込み、勝ち誇ったような顔で言った。
「お待たせ。何キロ痩せたと思う?ねえ分かる?」
目を丸くする私と妻に答える隙さえ与えない。
「7キロよ。51キロになったんだから。私はやると言ったら必ずやるの!」
「すごいよ。ありがとう!」
それ以上の言葉は出てこない。病院までの車中、母は自分がどれだけ歩いたか、いかに塩分を抑えたか、その努力の数々を改めて披歴した。その話一つ一つに私はただ、うなずいた。
「お母さん!すごい!何キロ痩せたんですか?」
診察室の寺下真帆医師も声が弾んでいる。
「検査結果にもびっくりです。たんぱく尿が消えていて、血圧も低くなっていました。一体、何をされたんですか?」
得意満面の母は、ヒートアップする。
「でしょ。7キロ。だって一日中ずっと歩いていましたから。塩辛いものも食べていません!これで移植、できますね」
寺下医師はうなずく。
「血圧はもう少し下がった方がいいですが、降圧剤もやめて、このまま努力を続けていただけることを前提に先に進めましょう」
間に合った――。母のおかげで、止まっていた時計が動き始めた。
母の決意と努力に応えたいが
息子の腎臓はそれまでもつのか
「では、まず組織適合性検査を受けていただきます」。寺下医師の言う「組織適合性検査」では、レシピエント(私)とドナー(母)の「ヒト白血球抗原(HLA)」の相性と、ドナーに対する抗体がないかどうかを調べる。
ドナーの臓器がレシピエントの体に入り、HLAが違うと、どういうことが起きるのか。
「この腎臓は“異物”」。そう免疫細胞が認識して攻撃したり、抗体を作り排除を試みたりする。これが拒絶反応である。そうならないよう免疫抑制剤を飲むのだが、HLAの相性がよくなかったり、既にドナーへの抗体があったりすると、移植後すぐに強い拒絶反応が表れやすい。