ただ、今では、HLAの相性や抗体の有無に関係なく、急性拒絶反応を抑えられるようになったため、夫婦間など非血縁間の移植も増えている。とはいえHLAができるだけ合っていた方がいい。移植後、慢性の拒絶反応が起きにくく、移植腎が長持ちする傾向にあるといわれており、HLAの相性が移植できるかどうかの関門といえる。

 結果を聞くまでの数日間は緊張したが、幸い、私と母はHLAの相性がよく、移植腎に拒絶反応を起こす可能性が低いとされる「陰性」という結果だった。

 5月半ばには、精神科医の面談も受けた。ドナー(母)には「移植が自発的か否か」を、レシピエント(私)には「移植を受けるのに適した精神状態か」や「移植後に自己管理できるか」を確認するために必要だという。移植は、ドナーである母の命にも関わる。私の前に母と面談していた精神科医に、一つ引っかかっている疑問をぶつけた。

「母は無理をしていませんか?勢いに任せているだけなのでは……」

 母に少しでもマイナスの感情があるのなら、移植を辞退すると決めていた。彼は真っすぐ私の目を見て、笑みを浮かべて語った。

「お母さんはとても強い意志をお持ちです。しっかりと話していらっしゃいましたし、心配いりません。すてきなお母さんですね」

 検査結果を踏まえ、医師たちが話し合いを重ねる。その結果、6月6日の診察で移植手術の正式な可否が決まると、寺下医師から聞いた。約1カ月後だ。

 ところが、私の体が手術に間に合うのか、かなり微妙になってきた。悪化のスピードが止まらず、腎臓は悲鳴を上げていた。

 綱渡りのような日々を送りながら、いよいよ“審判の日”を迎える。