うちは捕手には、投手のフォームチェックなどの役割も与える。いつも、私がブルペンで指導できるわけではないからね。投手の様子をよく観察し、気づいたことがあれば、それを伝えて一緒に修正する。

 もちろん、最初のうちは「フォームが右に傾いているだろ。こういう時は」とか、「ボールが高めに抜けているときは」などと基本的なチェック法を教える。あとは、自分なりの方法を構築していけるように促す。ブルペンでは投手コーチになって欲しいからね。

 ムネは相手をよく見とるよ。だから、できる。

 そして、独断で走るタイプではなかった。自分なりの対応をした上で、ちゃんと報告や相談をしてくれる子だった。指導者としては、信頼できる捕手だった。捕手としての経験が、打撃にもプラスになったと思うよ。

 色んなことができるようになったら、今度は下級生に教える役割も与える。

 私はゴルフは下手くそでどうしようもないんだけど、パターでラインを読む時は「反対側からも見ろ」と親友から教わった。反対から見ることで、初めて気づくこともあるんだよね。

 ムネは人に教えるのも上手だったよ。

 色んな引き出しを高校時代に作ってやって、次の世界に送り出す。それが指導者の役目だと思っているからね。

監督の“おまじない”で
不調だった打棒が復活

 ストライクを打つ。野球というスポーツはよくできていると思うよね。ボール球に手を出したら、ヒットになる確率はグーンと下がるんだから。打ちたい、打ちたいではダメなんだよ。悠然と構えて、本塁ベース上に来た球を打つ。ちゃんと我慢ができるかどうかも、打者は試されている。

 ヤクルトでレギュラーに定着したプロ2年目は、まだ自信がなかったんだろうね。「打たなきゃいかん」という思いで、ボールを追いかけていた。だから、三振が多かったでしょ(184個)。

 プロの投手に慣れるに従い、怖さもなくなっていったんだろうね。人間は自分の方が弱いと思うと、自分から仕掛けようとするでしょ。テレビで見ていて、そういう雰囲気が、3、4年目からなくなったよね。