日本を代表するプロ野球選手の「心・技・体」の基礎は、高校野球にあった。2022年、令和初の三冠王に輝いたヤクルト・村上宗隆選手の知られざる「号泣の夏」を、九州学院高校・坂井宏安監督が明かす。華やかな活躍を見せた清宮幸太郎の後塵を拝した村上に、師である坂井監督が「分からなければ辞書を引け」と、贈った言葉があった。※本稿は、朝日新聞スポーツ部『高校野球 名将の流儀:世界一の日本野球はこうして作られた』(朝日新書)のうち、坂井宏安監督の章の一部を抜粋・編集したものです。
1年夏から「4番一塁手」で出場
満塁弾で「西の清宮」の称号も
ムネ(村上宗隆選手)の練習初参加は、確か2015年3月25日。第87回選抜高校野球大会に出場し、熊本に帰ってきてすぐだった。ユニホーム姿のムネを見たのは、その時が初めてだった。着こなしがよかったね。
そして、トスバッティングが抜群にうまかった。近くから軽く投げる相手に、ワンバウンドでテンポ良く打ち返す。ひざを使って柔らかくボールを捉える。体はでかいが、器用な子だと思った。
吉本亮(現ソフトバンクコーチ)や高山久(現西武コーチ)もトスバッティングがうまかった。ムネも、でっかい選手に育てようと思った。
「お前はゴロを打ったらダメ。フライを打ちなさい」
すぐに、そう話した。
「とにかく高いフライを打つこと。中途半端な高さはダメですよ。内野に高いフライが上がれば上がるほどいいよ。左バッターだから、ショートに高いフライを打ちなさい」
ボールをしっかり捉えていないと、打球は高く上がらない。ミートがうまくて器用な子だから、小さくまとまって欲しくなかった。
練習は自分の技術を磨く場だからね。ヒットもホームランもない。いい当たりをして喜んでいるようではダメなんだ。明確な目的や意識をもって、それを実践できるようにするのが練習だからね。
「今日は前に打たないで、全部ファウルで真後ろに打ちなさい」と指示する日もあった。投球マシンから出てくる速い球を真後ろに打つのは難しいよ。ボールをよく見て、その下をこするように打つ。真後ろに飛べば、タイミングは合っている。
ノックで高いキャッチャーフライを打つ練習もやらせた。下半身をうまく使わないとできないからね。
1年夏は「4番一塁手」として熊本大会で満塁本塁打も打った。同じ学年の早稲田実(東京)の清宮幸太郎君(現日本ハム)が1年生スラッガーとして注目された夏で、ムネも「西の清宮」なんて呼ばれた。
頭の回転が速く記憶力もいい
指導者として信頼できる捕手
だけど、甲子園では安打を打てず、初戦で敗退。初めての挫折だったかもしれん。
新チームから本来の捕手にした。頭の回転が速く、記憶力もいい。城島健司(元大リーガー)のような打てる捕手になるんではないかという期待感があった。