小売業界では、足元の人件費高騰の波が大きな経営リスクとなっている。企業の選別が加速する中、勝ち残る“強い企業”とはどこなのか。特集『高配当・半導体・生成AI超進化!5年後の業界地図』(全19回)の#6では、専門家による小売り&外食34社の「賃上げ耐性」の試算を基に人件費高騰のリスクを徹底検証、今後も業績拡大が期待できる「成長期待」銘柄を紹介する。また、小売りの注目トピックであるインバウンドについて、その恩恵を受ける二つの銘柄も紹介しよう。(ダイヤモンド編集部 山本 輝)
人件費高騰で
企業選別が加速
「小売業界にとって、これからの5年は優勝劣敗がいよいよ明確になる重要な転換点になるだろう」。UBS証券の風早隆弘シニアアナリストは、そのような見立てを口にする。
いま、小売業界にとっての最大の逆風は、足元で吹き寄せる人件費高騰の嵐だ。UAゼンセンの資料によると、今年の春闘では4月時点で正社員の賃上げ率が5.49%となるなど、物価高騰の流れなどを受けて大幅な給料アップが実現。また、人材不足のあおりからパート人件費の上昇も続き、同じく6.11%の賃上げとなった。
労働者からしてみれば、これらの賃金アップは歓迎すべきだが、企業経営者にとっては悩ましい問題だ。労働集約的な小売業界において大きな負担増は免れない。
すなわち「これまで低賃金の労働力を前提に低収益でも存続してこられた企業が、いよいよ事業の継続性を問われるようになる」(同)のが、今後の中期的なシナリオといえる。
もちろん、だからといって全ての企業が一律に淘汰されるわけではない。重要なのは、その中でも賃上げ上昇に負けない、強いビジネスモデルや高い付加価値を創造できる企業を見分けることだ。
そこで、今回、専門家の試算を基に「小売り&外食34社の賃上げ耐性」を大公開する。小売りではイオンやセブン&アイ・ホールディングス(HD)傘下のスーパーのほか、三越伊勢丹やドン・キホーテのパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)、ユニクロのファーストリテイリング、投資家からも注目度の高いヤオコーなどを対象に、外食ではすかいらーくホールディングス(HD)やゼンショーホールディングス(HD)、スシローのFOOD & LIFE COMPANIESやくら寿司などを対象に、その賃上げ耐性を徹底検証していく。その結果、賃上げ耐性の傾向について、明暗がはっきりと浮かび上がった。
さらに、小売業界にフォーカスして、専門家が注目する「5年後も業績アップが期待できる有望銘柄」を大公開。賃上げがあってもそれを打ち返せる「強靱なビジネスモデル」を持つ勝ち組とその理由を明かし、投資妙味を併せて検証しよう。
PPIH、ファストリ、セブン&アイ・HD……注目の小売銘柄のうち、人件費高騰の逆風下でも勝ち抜けそうな企業や、業界の「台風の目」となるのはどこなのか。
早速次ページで見ていこう。