エンサイン・カレッジ・オブ・パブリックヘルスの例

土地の占有から土地の所有へと変わる数十年前、ペルーの高名な経済学者エルナンド・デ・ソトは、「公式に統合された私有財産制度がなければ、近代的な市場経済はありえない。西洋以外の市場は非効率なのは、私有財産制度がばらばらで、文書等の表現が標準化されていないことと大いに関係がある」と述べている。

また制度中心の経済発展理論に則り、デ・ソトは、貧困地域における潜在的な開発可能性を顕在化させるカギは、市民が、特に貧困層があらゆる種類の財産請求権、特に土地に関連する財産請求権を主張し保護される制度へと、政府が改革を推し進めることであると主張した。

数十年経った現在、経済学者たちは概して、デ・ソトの夢はいまなお世界の大半で実現にはほど遠いと見ている。しかしその多くは、以下の2つの事実をわかっていない。第1に、いい加減な土地管理制度は、最貧困層だけでなく、社会のあらゆる主体の発展を損なう。第2に、デ・ソトの夢をかなえるには、国際援助による制度改革よりも、市場創造型イノベーションによって達成される可能性のほうがはるかに大きい。

この小論の共著者の一人、ガブリエル・ゲイは、ガーナの首都アクラから45マイル(約72キロメートル)ほど離れたクポンに、1500万ドルを投じてエンサイン・カレッジ・オブ・パブリックヘルス(公衆衛生専門学校)を建設した。

誰からも文句を言われない土地所有権を得るために、エンサイン・カレッジは、アメリカとガーナのそれぞれに法律チームを置き、3年間にわたって大陸間、裁判所、さまざまな政府機関を頻繁に行き来した。しかしその間、財産の差し押さえと認可の取り消しの危機にさらされた。こうした紛争が解決した後、エンサイン・カレッジは完全かつ正当な所有権が保証された土地を購入した。

それでも、組織の弱体化、不法占拠による土地収用の継続的かつ未解決の脅威に対する懸念が残ったため、エンサイン・カレッジは、ガーナ人の多くが行うように、50エーカー(約20万平方メートル)のキャンパスの周囲に1マイル(約1.6キロメートル)に及ぶ塀を築き、紛れもない土地所有権を主張した。

この話は、なぜ私有財産権が社会の発展にとって基盤である一方、善意と資金が投入された試みがサハラ以南のアフリカで失敗に終わるのか、その理由を示唆するものである。

財産所有権や不動産登記が曖昧だと、海外直接投資が抑制されるのみならず、市民の起業家精神にも悪影響を及ぼす。土地所有権を主張できないとすれば、そこに建物を建てたり投資したりする気になるだろうか。さらに、自分の土地として認めてもらい、それを資産として活用し、金融や投資目的に活用するにはどうすればよいのか。この話は、土地管理サービスの改善というニーズが民間部門に存在することを示している。

なお本ケースでは、地域社会の発展や貧困層への経済支援などを目的とした社会的投資に焦点を当てた組織が需要の源泉であったが、多くの場合、純粋にビジネスに関わるものである。


©2019 Clayton M. Christensen, Efosa Ojomo, Gabrielle Daines Gay, and Philip E. Auerswald.
The article is published in Innovations: Technology, Governance, Globalization, Winter- Spring 2019 of MIT Press.