「私、職場で嫌われてる?」一度そう思うと、気になって仕方がなくなるものだ。「職場は友達づくりの場ではない」とはいえ、コミュニケーションは必要。さて、まわりの人の目を気にせず、ある程度距離をとって、ストレスフリーに仕事をするにはどうすればいいのだろう?
42歳でパーキンソン病におかされた精神科医のエッセイが、韓国でロングセラーになっている。『もし私が人生をやり直せたら』という本だ。「自分をもっと褒めてあげようと思った」「人生に疲れ、温かいアドバイスが欲しいときに読みたい」「限られた時間を、もっと大切にしたい」と共感・絶賛の声が相次いでいるそうだ。
男女問わず、多くの人から共感・絶賛を集める著者の考え方とは、いったいどのようなものなのか? 本書から、エッセンスをピックアップして紹介する本連載。今回のテーマは、「職場の人間関係に疲弊しないコツ」だ。(文/川代紗生、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

もし私が人生をやり直せたらPhoto: Adobe Stock

「職場で嫌われたくない…」まわりの目を気にしなくなる方法は?

「職場は友達をつくるための場所じゃない。だから、相手の人に嫌われたらどうしよう、とか、好かれたい、とか考える必要はないんですよ」

 こういった類のアドバイスを、これまでに何度も目にした。

 職場の人間関係に悩むことが、たびたびあったからである。

 いつもは優しい先輩が、今日は機嫌が悪そうに見えた。上司が、自分にだけきつく当たってくる。

 そういうちょっとした問題が起きたとき、インターネットで、「職場 嫌われたくない 気にしなくなる方法」などのワードを検索窓に打ち込んでは、出てくる「職場は友達をつくるための場所じゃない」というアドバイスに、なんとなく、納得しきれずにいた。

 だって、そうはいっても職場とは、1日あたり8時間、1週間で5日間も通う場所だ。人生の大半の時間を過ごす「職場」において、「自分のことを嫌っている誰かがいる」だなんて、とんでもなく恐ろしいことだし、いくら「嫌われても仕事は進む」と自分に言い聞かせたとて、ストレスがなくなるはずもなかった。

 とはいえ、感情を挟まず、淡々と仕事を遂行できる人も、確実に存在する。

 そういう人たちは、どうやって割り切っているのだろうと、頭の中をのぞいてみたい気持ちだったのだが、その答えが、著者の考え方に触れてやっと見つかったような気がした。

42歳で「パーキンソン病」を患った彼女が見つけた「後悔なく生きるヒント」とは

 著者は、42歳でパーキンソン病におかされた韓国の精神科医、キム・へナムさんという女性だ。彼女が生まれたのは1959年であり、本書が韓国で出版されたのは2015年のこと。つまり、彼女が55歳か56歳くらい──病気になってから約13年後に書かれたエッセイということになる。

「パーキンソン病」とは、脳の神経伝達物質であるドーパミンの分泌量が減ってしまう病気で、それにより、筋肉がうまく動かせなくなったりするそうだ。明確な治療法は見つかっておらず、病気の進行を遅らせるしか、今のところ対策はないらしい。

 そんな難病を、働き盛りの42歳で患ってしまった彼女の書く言葉は、意外なほど、自然体だった。

 現状の辛さを切々と語るのでもなく、気持ちを奮い立たせるために、あえてポジティブな言葉を使うのでもなく、肩の力を抜いた、ナチュラルな言葉で、自分の思いを綴っている。

「本当に面倒見がいい人」と「ズケズケ説教するだけの人」決定的な違い

 たとえば、本書には、「職場にいる嫌な人との『楽な付き合い方』」についてのアドバイスがある。

 著者の娘の友人が、職場での人間関係に悩んでいるという。

 なんでも、彼女の苦手な先輩は、ところ構わず感情的にわーっと叱りつけてくるだけでなく、プライベートな話を明け透けに話してくる上、さらに、後輩にも「同じ熱量で、プライベートの打ち明け話をしてくれること」を望むのだそうだ。

 このエピソードを読んだとき、思わず、「わかる!」と、ページの余白に赤字で書き込んでしまっていた。

 仕事のあれこれについてわーっと怒ってくるだけなら、「高圧的でパワハラ気味の先輩」として、ある程度気持ちの整理もつけられる。

 しかし、このケースの先輩は、叱りつけたあとに、コーヒーや食事をおごったり、フォローもしてくるのだそうだ。

「仕事では厳しい先輩と、指導してもらっている後輩だが、プライベートでは仲がいい」という関係性を望んでいるのだろう。

 こうなると、対処の仕方に困ってしまう。

 まわりからは面倒見のいい先輩、というふうに見られているかもしれないし、さらに上の管理職に相談なんてしたら、むしろ「先輩の好意を受け取れない」と、こちらの評価が下がる可能性だってある。

 問題の解決は見込めない。言い返したりするとカドが立つ。ということは、苦手な相手ともうまく付き合えるよう、自分のスタンスを変えるしかない。

「職場の人間関係」に疲弊しないたった1つのコツ

 そんなとき、どうすればいいのか。

 著者によると、会社の人間関係で疲弊しなくなるための鍵は、「親しくなること」と「円満につき合うこと」を、分けて考えることだという。

親密度は、関係の度合いによって同心円を描くように広がっていきます。少数の親密な関係から、名刺を交換した程度の間柄まで、円の大きさはさまざまです。
ここで私が述べている「円満につき合うこと」とは、この同心円の大きさを把握し、それに沿って行動するということです。職場の先輩後輩の間柄の同心円は、お互いの力量を十分に発揮しつつ、関係にきしみが生じた時は角が立たない程度に解決していくくらいで十分。お互いに無理に好意を抱く必要などないという意味です。(P.92-P.93)

 この「同心円」という考え方は、私にとってとても新鮮だった。

 つまり、それぞれの人間関係によって、どの同心円に入るかは異なり、

 ・家族や友達の人たちの同心円=「親しくなること」が目的
 ・一緒に働く職場の人たちの同心円=「円満につき合うこと」が目的

 というように、それぞれの同心円ごとに、何を目的とするのか、ルールが違うと考えればいい、という提案だ。

 さらに著者は、過去の人生経験を振り返り、こう綴っている。

もうひとつ、私のこれまでの人生を振り返ってみると、私と反りの合わなかった人というのは10人中2人くらいの割合でした。その2人とは、私がどんなに努力してもどうしても親しくなれませんでした。(中略)
ですから、誰からも好かれようとして、反りの合わない相手との関係改善に多くのエネルギーを費やさないでください。(
P.94)

 この一文も、私にとっては意外だった。

 というのも、この著者の文体やキャラクターからは、物腰柔らかで、誰にも好かれ、敵を作らなさそうな人柄が伝わってくるのだ。

 物事を冷静にとらえ、自分なりの強い意思を持っている。そんな彼女でも、10人中2人くらいは、どんなにがんばっても親しくなれない人がいる、というではないか。それなら私にだって、合わない人がいて当たり前だ。

「親しく」しようとしなくていい。「円満に」付き合えれば、それでいい。

 せっかく面倒を見てくれている先輩のことを、どうしても苦手だと思ってしまう自分自身を責める必要もなければ、相手に好かれるために努力しなくてもいい。

 目的はただ1つ、「円満にやりとりすること」

 こうしてルールを明確化すると、人間関係の整理もやりやすくなるのではないだろうか。