だからと言って、ロゴをパクっていいという話にはならないのだが、この指摘はそれほど間違っていない。古くは江戸時代から飲食店は「模倣」を前提として発展してきたという、動かし難い事実があるのだ。 

 たとえば江戸後期、葺屋町(現在の日本橋人形町)に「三分亭」という居酒屋ができて人気となる。三分とは銀三分で、今の貨幣価値だと360円くらいだ。つまり、これは「360円均一のつまみで酒が飲めますよ」というコンセプトの居酒屋だ。

 するとほどなくして、「いきなり!ステーキ」のようにすさまじい勢いで似た名前の店が乱立する。1845年ごろの江戸の風俗を記した『わすれのこり』にはこう記されている。

「所々に三分亭という料理屋多く出来たり。座敷廻り綺麗にして、器物も麁末なるを用ゐず。何品にても三分づゝ、中々うまく喰はす」

「完コピ」が得意な日本人は
「吸収消化」する民族?

 もちろん、このように売れているものを模倣するというのは、市場経済のある国で見られる普遍的な現象だ。ただ、日本人の特徴としては「忠実に完コピをする」ということがある。かつて日本メーカーは、欧米の製品を忠実に完コピするところからスタートした。松下電器が「マネシタ電器」などと揶揄され、松下幸之助氏が「日本人は決して単なる模倣民族ではないと思う。吸収消化する民族である」と反論をしたことからもわかるように、日本人の商いの精神のベースには「模倣」があったのだ。

 この模倣は参入障壁が低い業界であればあるほど活発におこなわれることは言うまでもない。その代表が、飲食業界だ。特別な技術やノウハウがなくとも、人気店のコンセプトや名前をパクれば、それなりに客を集めることができる。

 しかし、当たり前だが客商売はそんなに甘いものではないので、中身を伴わない店はクチコミで悪評がたってすぐに閑古鳥が鳴く。また、そこまでひどい店ではなくとも、模倣があふれて供給過剰になるので消費者からは飽きられてしまい、結局、潰れてしまう。