しかし、法と倫理だけではまだ足りません。どちらも裏切りの抑止力として機能はするものの、「誰を仲間にすれば得なのか?」「関わってはいけない人間は誰か?」といった疑問の答えは教えてくれないからです。

 周囲から聖人とあがめられる人物が、裏では悪党だったというケースはよく見かけます。長らく善人と呼ばれた人物が、金に困って悪事を働くような事態も珍しくはないでしょう。裏切り者を見抜くのに、法と倫理は無力です。

 その結果、原始時代の人類は、普段のコミュニケーションを通して、他人の信頼性や好感度を自動で査定するシステムを進化させました。私たちが無意味な雑談に時間を費やすのは、お互いの信頼性を値踏みしあうためだったのです。

 込み入ってきたので、いったん話をまとめます。人類の祖先は、生物としての弱さを克服すべく、進化の過程で“協力”という手法を発明。そのおかげで生存率のアップに成功しましたが、同時に裏切りの問題が起きたため、今度は他者の信頼性を見抜く能力を身につけ、仲間と協力しあうシステムの維持を試みました。

書影『最強のコミュ力のつくりかた』(扶桑社)『最強のコミュ力のつくりかた』(扶桑社)
鈴木 祐 著

 すでにお気づきの方もいるかもしれません。これこそが、“魅力”の正体です。

 メカニズムを説明します。初対面の相手とコミュニケーションを始めると、私たちの脳はすぐに査定システムを起動させ、「この人物と協力しあうべきか?」の判断をスタート。その査定が「NO」だったときは、脳は「なんとなく不快だ」とのシグナルを発し、相手からあなたを引き離そうとします。

 逆に「YES」の判定が出た場合は、脳は「好感が持てる」との感覚をあなたに向けて送り、相手との関係を前に進めるようにうながします。要するに私たちは、「この人は裏切らない」「私を助けてくれそうだ」と本能が判断した相手を、「魅力がある人物」として感知しているのです。