鳥のさえずり、猫の鳴き声、馬のいななきなど、ヒト以外の動物は平均10種類の音声でコミュニケーションを行いますが、この点において、人類が獲得した能力はレベルが違います。私たちが日常で使う単語の数は成人で2万を超えますし、込み入った文法を用いて複雑な思考まで表現できる動物は他にいません。

 ここまで高度な技術を人類が進化させた理由については、くわしく説明するまでもないでしょう。もし言語を使えなかったら科学の発展は止まり、法による紛争の調停はおぼつかず、誰かに助けを求めることもできません。人類が今の文明を築けたのは、言葉の力で重要な情報を伝えることができたからこそです。それなのに、実際の私たちは、貴重なコミュニケーションを無益な情報のやり取りに使ってしまうのだから、時間の浪費としか思えません。

 実に不思議な現象ですが、その答えを一言で表すなら、「雑談を使って相手の能力を査定するため」となります。一見役に立たない雑談のなかで、私たちは、相手がどのような人物なのかを値踏みしあっているのです。

 私たちが雑談のなかで判断するのは、たとえば次のようなポイントです。

 この人は私の仲間にふさわしいか?
 この人は困ったときに私を助けてくれるか?
 この人には日常の問題を解決する力があるか?

 その証拠に、近年の研究では、私たちは初対面の相手と雑談をスタートさせてから、ほんの100ミリ秒で相手を評価し始めることがわかってきました。査定の対象は多岐にわたり、相手の身体的な魅力、性格、知性、経済力まで、あらゆる要素が評価の俎上にのぼります。

 そのなかでも、私たちが重点的にチェックするポイントは以下のようなものです。

・会話の相手は社交的か? 共感力があるか?
 ジュネーブ大学の実験では、被験者に対し、男女が雑談をする動画を30秒だけ見たうえで2人の性格を推測するように言い渡しました。結果、約9割の被験者は、男女のパーソナリティを驚くほどの正確さで見抜き、なかでも「社交性」や「共感力」といった能力の判定がうまい傾向が認められました。

・会話の相手は頭が良いか悪いか?
 たいていの人は、会話がスタートしてから数秒で、相手の知性を判断します。その精度は上々で、ロヨラ・メリーマウント大学の実験によれば、被験者から「この人は頭が良い」と評価された人物は、実際にIQが高い傾向がありました。ちなみに、私たちが相手のどこを見て知性を判断しているのかは、まだ判然としません。