・会話の相手は健康か不健康か?
 私たちには、他者の健康状態を見抜く能力も備わっています。カロリンスカ大学の実験では、被験者の一部を少量の細菌に感染させたあと、それぞれの顔写真と体臭のサンプルを取得。これらを別の被験者に提示したところ、ほとんどの人は、顔写真と体臭の情報だけで細菌に感染した人物を言い当て、「不健康そうで魅力がない」と判定しました。当然ながら、細菌に感染した人たちは、辛そうな表情を浮かべていたわけでも、顔色に異変があったわけでもありません。

・会話の相手は信頼できる人物か?
 ここ数年の研究により、私たちは他人と出会ってから2秒で、目の前の相手が信頼に足る人物なのかを判断することもわかってきました。代表的なのはスタンフォード大学の調査で、研究チームは、同大学の新入生たちに教師の講義動画を2~10秒だけ見せ、どのような印象を持ったかを調査。すると、新入生たちの回答は、教師のことをよく知る上級生の評価とそっくりで、特に「信頼性」「共感性」に大きな一致が見られました。その相関係数は0.76で、ほんの数秒の判断としては、驚くべき正確さだと言えます。

 代表的なところを見てきましたが、これらはあくまで一例にすぎません。相手の裕福さ、リーダーシップ、恋愛スキル、几帳面さなど、数えきれない量の要素を、人間は数分で査定し、その評価もかなり正確だとわかっています。

 すべての査定が終わるまでの時間は平均5分で、ここで出た結論をベースにしつつ、私たちは相手との会話を続けるかどうかを判断します。この査定が、コミュニケーションの第一関門になるわけです。

人類ほど平気で仲間を騙す生物はいない

 人類がここまで正確に他者を査定できるようになったのは、私たちが脆弱な生き物だからです。

 言わずもがな、ヒトの身体は他の動物より弱く、硬い牙や爪を備えるわけでなく、体を守る甲羅もありません。そんな弱い肉体を持ったまま、有史より前の人類は、脅威に満ちたサバンナで暮らさねばなりませんでした。

 いつ猛獣に襲われるかもわからず、つねに食糧不足の不安につきまとわれ、正体がわからない疫病の発生を警戒する。そんな過酷な環境を生き抜くには、仲間たちと相互扶助のコミュニティを作り、生存のリスクを減らすのがベストだったでしょう。