坂本:(…)「どういうのがウケるの?」っていっても、100万200万単位の人間を相手にね、まあ100万人いれば100万人のテイストがあって、まあ、日本人が画一的だとはいっても、かなりいろんな趣味趣向の人が増えてきた中で、100万人っていう単位の人を想定するっていうのは、非常に困難だと思うんだけど(…)
(「TKMC NON EDIT TALK : 小室哲哉★坂本龍一」 https://www.fujitv.co.jp/TKMC/BACK/TALK/r_sakamoto.html

小室哲哉が日本人の耳を
「教育」してしまった

 あくまで「音ありき」が基本だという坂本龍一と、「ウケないとやだ」という小室。実際、小室はこの後、「100万人」規模のヒット曲を出していくわけだが、ここにはっきりと示されている2人のスタンスの違いは非常に興味深い。と同時に、坂本龍一の苦悩のようなものも伝わってくる。

 ダウンタウンという当代随一の人気者のアルバムを作るプレッシャーは確実にあっただろうし、自らのアルバム『Sweet Revenge』への思いも透けて見える。

 小室はTM NETWORKの時代にオリコンチャートで1位を獲得したシングル曲が5曲ある。そうしたことも念頭に、坂本龍一はこんなことを言っている。

 TM(ネットワーク)時代からこう、ヒット曲作ってきて、(…)日本人の耳をね、教育しちゃったとこがあって。あの、まあ、僕なんてちょっと困るとこもあるんだけど、(…)小室流のメロディ・ラインとか、まあ、転調とかアレンジも含めて、そのビート感も含めて、(…)教育しちゃったから、その、ある層をね。だからそれに引っ掛かるようなパターンを出すと、必ず売れるっていう現象が今起こってると思うわけ。この10年ぐらいで(…)。(同前)

「僕なんてちょっと困るとこもある」と正直に口にしてしまっているのが坂本龍一らしい。もちろん彼としても、敢えて単純化して話をしている自覚はあっただろうが、しかしこれはやはり本音だったのだと思う。