環境が変動しているとき、「異なる遺伝タイプが、異なる環境で、それぞれ別の利点をもつ」ということだけでは、異なる遺伝タイプは維持されないのだ。

親は同じなのにサナギの時期が異なる
「ベット-ヘッジング」で変異を維持

 しかし、集団における個体の変異が遺伝的な違いではなく、同じ遺伝型でありながら異なる性質を示すような表現型変異の場合は、時間的環境変動によって維持されることがある。

 とあるハチの例を見てみよう。砂漠に生息するあるハチの一種は雨が降ったあとに開花する植物を利用している。

 砂漠では雨期に雨が大量に降る年もあれば、ほとんど降らない年もある。

 そして、このハチには2つの異なる生活史を示すタイプがいる。このハチは巣穴を掘って卵を産むが、1つは親が巣を作り、その年に産卵された卵が孵化して、幼虫が蛹になり、餌となる植物が開花する時期に羽化するタイプA。

 もう1つは、親が卵を産んで孵化した幼虫が蛹になるのをやめ、次の年までに体を大きくして、雨という環境刺激で蛹になり、羽化をするタイプBである。

 これらは遺伝的に違う別々の個体ではなく、同じ親が産んだ卵のなかで遺伝的違いとは関係なく、異なる表現型を示す個体が生じているのだ。

 産卵された年に卵が孵化し、幼虫が蛹になるタイプAの個体は、同じ親個体が産んだ卵のうち約半分である。

 そのほかの卵は、次年度以降に蛹になるが、それまでに幼虫は大きく成長する。このような性質をベット-ヘッジングと呼んでいる。賭(ベット)を分散(ヘッジング)するという意味である。

 つまり、1つにすべてを賭けるのではなく、複数に分けて賭けるということだ。複数の銘柄の株へ投資する分散投資のようなものである。

 このようなベット-ヘッジングの例として、発芽する種子とすぐに発芽しない種子を混合して作る植物がよく知られている。これは予測できない環境変動が表現型の変異を生じさせ、維持している例である。