結局、時間で変動する環境によって遺伝的変異が維持されるためには、AGのようなヘテロ接合の遺伝型のときに平均適応度が最も高くなるという限定的超顕性の条件を満たす必要があるのだ。

複数の変異サイトが
時間的環境変動への適応に関わっている

 ただし、ここまで見てきたのは、AアレルやGアレルといった1つの変異サイトに関する変異の維持についてである。(編集部注/変異サイト=集団内で変異あるいはアレルが存在するゲノム上の位置)

 実際のところ、時間や季節、年によって変動する気温などの環境に対して生物が適応する場合は、その適応に関係する変異サイトは1つではない。

 ゲノム上の異なる場所にある多数の遺伝子のアレルが、温度に対する適応に関係していると考えられる。

 ある1つの変異サイトではGアレルが低温環境に有利で、Aアレルが高温環境で有利であり、別の変異サイトではCアレルが低温環境に有利で、Tアレルが高温環境で有利であるといったような場合だ。このような変異サイトがたくさんあると考えるのが現実的である。

 しかしこのような場合でも、それぞれの変異サイトで変異が維持されるためには、寒い年や暑い年を経験したときの世代を超えた平均適応度が、ホモ接合の遺伝型よりヘテロ接合の遺伝型において充分に高い必要がある。

「時間的環境変動」と
「遺伝型の適応度」が作用しあう

 ただ、近年の理論的研究では、実際の生物において温度に対する適応度の条件が少し緩和されることが指摘された。

 たとえば、低温や高温への適応の効果は、変異サイトが1つ、2つ、3つと増えていくと、その総計の効果はしだいに大きくなるはずである。

 そして、この変異サイトの数と適応への効果の関係によっては、ヘテロ接合遺伝型の平均的な適応度が、少しだけホモ接合の遺伝型より高くなるだけで、遺伝的変異が維持されるのだという。

 実際の生物ではこの条件が当てはまるらしく、時間的な環境変動によって遺伝的変異が維持されている場合が多いのではないかと指摘されている。

 ここまで見てきたように、時間的に環境が変動するという理由だけで、集団内の遺伝的多様性を増大させたり、集団内の変異の維持が促進されたりするわけではない。