たとえば、初期段階では、家族の近くに住みたいという気持ちで仕事探しをしていたとしても、就職活動を進めていく中で、自身の未来の様々な可能性と比較して、仕事探しの軸が変わるかもしれません。自身の希望にこだわりすぎることは、もしかすると自身の可能性を広げる機会を失うことに繋がるかもしれないのです。思わぬ出会いや経験から好奇心が刺激され、強いモチベーションが湧きたってくるような、キャリアとの出会いもありえるのです。

 クランボルツの「計画的偶発性理論」をご紹介しましょう。スタンフォード大学のクランボルツ教授が1999年に発表したキャリアに関する理論で「個人のキャリアの8割は予期せぬ偶然の出来事によって決定される」という考え方です(厚労省※)。5つの行動特性が、偶発的な出来事を意図的な成果につなげる可能性を広げると言われています。

 その5つとは、好奇心(新しいことに興味を持つ)、持続性(失敗してもあきらめない)、楽観性(なんとかなると考える)、柔軟性(様々な可能性に適応する)、冒険心(結果がわからなくても挑戦する)です。より良く生きるために自分は何をしたいのか、自分の強みは何でどう活かしていくのがいいのか、を目の前の仕事に注力しながら常に考え続けていれば、偶然訪れる絶好のチャンスも、逃すことなくつかみ取ることができる。そして、その結果、自身でも思いもよらなかった充実したキャリアを歩んでいくことができるのです。

山登り?いかだ下り?
完璧な計画より、偶発的なチャンスを生かす余力を

 キャリア形成には二つの道筋があるとも言われています。計画的なキャリア形成は「山登り型」と呼ばれます。自分の専門を定めて、一つの頂点に向かっていくような進み方です。それとは反対に、ゴールを設定せず、目の前の仕事に全力で取り組み、結果的に自分に必要だった力がついていく「いかだ下り型」のような進み方を偶発的なキャリア形成と呼ばれます。

 つまり、「就活で自分のキャリアに真摯に向き合った経験は将来必ず生きる」と信じ、まずは自身が「これだ!」と思える選社基準を仮置きする形で就活を進めていくくらいがちょうどいいということです。一旦、仮置きした選社基準で就活を進め、働き方や生き方について考え続け、体験を重ねて、確認と修正を加えながら進んでいくイメージです。

 そのようにキャリアに向きあった経験は、入社後においても、山登り型やいかだ下り型をうまく使い分けながらキャリアオーナーシップを高め、よりよい職業人生を歩んでいける土台になっていくでしょう。

(リクルート就職みらい研究所所長 栗田貴祥)