もう一つ、別の質問(あえてアバウトにしてある)をしてみよう。こちらも正答のない質問だ。

 新しい商品やサービスを購入する場合に、あなたはどのように意思決定すべきか?

1. 基準を明示した上で、必ず合い見積もりを取り、最も安いものを選択する
2. 提案をしてもらう機会を設け、相手のやる気や執行体制や価格面などを総合的に判断して選択する
3. 商品やサービスがダメな場合は買わないが、良いと思ったら、思い切って高い価格でも購入する

「商品やサービスが不明なので、こんな質問には答えられない」と多くの方が思われたことであろう。それは全く正しい。例えば、仕様を明確に定めることができる材料や工事のようなものであれば1が適当だし、広告宣伝のプロモーションやアウトソース先の選定などには2がマッチするだろう。

 会社の購買セクションも、1はもちろん、2であっても許容はするだろう。業者間でコンペを行い、選定の評価基準を定め、複数の専門家や管理職が正当に評価して選定したというエビデンスを残せばOKのはずだ(会社によっては、それでも1に固執する購買セクションの説得に膨大なエネルギーを使わなくてはならないこともあるが)。

今こそ問われる
「商売センス」

 では、3はどうだろう。3がふさわしい商品やサービスを思い付かない人もいるのではないだろうか。3の選択肢など、あり得ないと。

 ただ実際には、3もある。

 かつて、古美術評論家の中島誠之助氏が、日本経済新聞上で以下のようなコメントをしていたことがある。

 いいものは必ず高い。同業者が50万円と評価した品を私は100万円で競り落とした。すると例えば200万円でも買う人はいるものですよ、名品は。中島は高く引き取ってくれると次第に評判になり、えりすぐりの品ばかりが持ち込まれるようになりました。安く仕入れてもうけようなんて根性だと結局、損をするんです――。

 これは、美術品以外にも通ずることだと思う。

 一般商材と違い、企画やデザイン、M&Aの案件、アイデアなどは、安く買いたたくと良い話が来なくなる。高く買うからいい話が持ち込まれ、結果的にもうかる商品やサービスも存在するのだ。

 しかし、もし普通の大企業で3の選択をして物事を進めようとすれば、上級管理職には難色を示され、購買セクションからはまずストップを掛けられる。3が可能なのは、オーナー企業だけだ。

 よって事実上、3の選択肢はなくなる。そして果敢に意思決定できるオーナー企業に後れを取る。