ここで記したような内容は、いかに外注先に気持ちよく働いてもらい、自社にとっても外注先にとってもメリットが出るようにするか、いかに相手にもうけてもらいながら、こちらも良い評判を得て、最終的に自分のところにも見返りがあるような仕組みを作るか、といった利他と利己を共存させる商売の基本である。
これはビジネスモデルといった大げさな話ではなく、ミクロの「商業道徳」の話であり、長期的にどの選択肢を選ぶことが会社にとって最もメリットがあるかを本質的に理解できるかという「商売センス」の問題なのである。
残念なことに、このような商売センスのある人が、大企業の現場には今やほとんどいない。また若い人が商売センスを磨いたり、養ったりする機会もない。
超短期的な目標の達成と機械的な尺度の導入によって、ひたすら、そうした数値合わせに汲々とするあまり、外注先や協力企業を痛めつけ、最終的に自分たちを窮地に追い込んでいる。
実務的知識の欠如、発注先の業務への想像力の欠如、商売センスの欠如――。なんでも自分でやらなければならないベンチャー企業は別にして、かつて世界に誇った日本企業の現場力はすでに大きく衰退している。
とりわけ商売センスの欠如については、絶望的であり、再生させる手立てが全く見えない。
せめて外注先に何かを発注するときは、自分が同様のことを依頼されたと仮定して、相手の仕事内容の難度の高さや準備の苦労を想像するくらいはしてみてもいいのではないか、と愚考する次第である。
(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)