QUOカード付き宿泊プラン、何が問題?
2人で話をしているところにE社労士が尋ねてきた。
「お取込み中すみません。今日はC部長と面談のお約束をしていたので伺いました」
「おっ、いい所に来てくれた。社員が出張宿泊費を余計に請求し、差額をだまし取った疑いが発覚した、事実なら何らかの処分をしたいんだがどうだろう?」
E社労士はC部長から詳細を聞いたあと、旅費規程を確認させてほしいと言った。
○ホテルや旅館の予約をする際に、宿泊プランの特典としてQUOカードが付いてくるもので、QUOカードの金額分宿泊費が割高になる場合もある。
○宿の請求書はQUOカード付きプランであることを明記せず、ほとんどの場合単に宿泊代として記載される。そのため、出張時においてQUOカード付き宿泊プランを利用するビジネスパーソンもいる。
○宿泊プランとしては、QUOカード付きプランの他に、指定した飲食店やお土産品店などで利用できるチケット付きのプランを採用している宿も増えている。
E社労士は、就業規則と旅費規程に目を通した後、D主任に尋ねた。
「出張した場合の交通費と宿泊費は事後精算なんですね?」
「そうです。出張の場合、両方とも社員が自ら手配し、出張から戻ってきたら精算書を出してもらっています。営業交通費と違い、立て替え額が大きいので、精算書提出後原則3日以内に支払うようにしています。新幹線などの交通費は実費支給で、宿泊代は昨年まで1万円の定額支給でしたが、今年から部屋代のみの実費支給に切り替えました」
○出張の際の宿泊費を会社の経費で利用した場合(いったん社員が立て替え払いをして後日会社に申請、支給を受ける場合でも同じ)、扱いについては就業規則の定めによる。
○宿泊費として支給する金額が一律で決まっている場合は、実際の宿代が支給額より少なくても会社に報告する必要はないが、支給額よりも高い宿を利用した場合、その差額は自腹になる。甲社の場合、昨年まで宿泊費は一律1万円の支給だったため、その当時A課長がQUOカード付き宿泊プランを利用しても問題はなかった。
○実費請求という宿泊費にかかった実費を会社が全額負担をする場合は、QUOカード分は原則会社の所有物となり、会社の許可なく自分で使用した場合は横領したと認識される場合がある(刑法第253条)ので、実際には、今年からA課長はB代理と同様、部屋のみの予約しかできないことになる。
C部長はE社労士に質問した。
「すると、A課長の場合、横領により懲戒処分ができるんですね?」
「待って下さい。甲社の場合、宿泊費の支給基準を変更したのは今年からで、それまではA課長のやり方で問題なかったわけです。就業規則を変更した場合、社員に周知する必要があります。周知がない場合は、就業規則に懲戒規定が明記されていたとしても、処分や差額の返還請求も難しいでしょう」
C部長はため息をついた。
「泊りがけで出張しているのは、今のところA課長だけです。旅費規定の変更を彼に説明したかどうかは分かりません。きっと伝わってなかったんですね。懲戒処分や差額の返還請求はしないことにします」