血糖値が上がり、ストレスが減り、少量のドーパミンが出るというミックスのカクテルだ。身体由来のカンナビノイド[大麻草に含まれる化学物質の総称]も起動され、最高の気分になる。

 しかしそれはほんの短い間で、オーケの脳はもっとリンゴを探させるためにドーパミンのレベルを下げる。それも、リンゴを見つける前よりも下げてしまうのだ。ドーパミンの消失で急に虚しさに襲われ、オーケはまたリンゴを探し始める。ではここで2万5000年分早送りして現代に戻ろう。

 おかげで冬になる前に食料を集め、小屋を修理し、藁のベッドをもう少し心地良く改良することができた。生き延びて子孫に遺伝子を繋ぐために環境を良くし、自分自身も成長したい――オーケはそんな意志に突き動かされている。

 空腹で死にそうというわけではないが、アイスクリームやお菓子、ポテトチップスがあればいいのにと思う時がある。車でわざわざスーパーに向かうと、なんと閉まっていた。がっかりした気持ちをすぐに埋め合わせようとするが、次の店も閉まっていた。さらに突き動かされ、なんとしてでも開いている店を探そうとする。そしてついに開いている店を見つけた!ドーパミンが強い満足感をくれる。さあ、これでやっと――。

 しかし何ということ、家に財布を忘れてきてしまった。ドーパミンがまたクラッシュして、最低レベルまで落ち込む。しかし駐車した車の中で財布を見つけた。ああよかった――!あなたは代金を払い、家に着くのも待てずに車の中でポテトチップスの袋を開けてしまう。

 満喫しながらあと1枚、あと1枚とつまむうち、袋は空になる。その頃には良い気分は吹っ飛んでいる。何が起きたのかというと、ドーパミンのレベルがベースラインに戻ったのだ。つまり買い物に出る前のレベルに。そこで急に虚しくなるのは、別のところでさらにドーパミンを探させるためだ。

 このように人間に組み込まれた報酬系は2万5000年間変わっていないが、社会は大きく変わってしまった。私たちがつくり上げたこの社会には、昔は存在しなかったドーパミン源が山ほどある。オーケの時代には「生き延びられる状況をつくる」のがドーパミンの目的だったのだが。