中国国旗と空港Photo:PIXTA

中国から脱出する国民が増えている。富裕層だけでなく、一般庶民も海外移住を志向する人が増えているようだ。中国は不動産バブル崩壊、若年層の雇用・所得環境の悪化をはじめデフレ経済が深刻化している。政府は補助金を支給し、安価な電気自動車や車載用バッテリー、太陽光パネル、鉄鋼などの生産を増やして景気回復を狙うが、過剰生産能力を膨張させる政策が持続できるとは考えづらい。また、政府がSNSや金融取引の監視を強化していることも、人々の不満が増える要因だ。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)

富裕層から庶民・若者まで
中国から脱出する人々が増えている!

 世界銀行のデータによると2012年、中国に入った移民の数から、離れた人数を引いた「純移民」は、約12万人のマイナスだった。それが17年、中国から出ていく人は約18万人になった。続く18年は約30万人の純流出で、コロナ禍の発生で自国に戻る人が増加した期間を挟み、23年は約31万人の減少だった。

 中国の富裕層の海外脱出に関しては、英ヘンリー・アンド・パートナーズの年次予測からも確認できる。同社は富裕層を、米ドルで100万ドル(1ドル=161円で1億6100万円)以上の資金を保有する人と定義している。

 16年、中国の富裕層は約9000人の純減だった。22年は1万800人の流出、23年は1万3500人減だった。24年、中国から海外に移住する富裕層は1万5200人に上る見込みだ。実に、16年から69%も増えている。

 中国人富裕層は、移住先として米国やシンガポール、オーストラリアなどを選ぶ傾向にある。24年は日本を選ぶ人も増えたという。円安の進行で、中国の富裕層にとってわが国の不動産などが割安に映ることも理由だろう。

 富裕層だけではなく、相対的に所得水準が低い一般市民の海外移住も増えている。23年、米南西部の国境地帯で、税関・国境取締局が拘束した中国人不法移民の数は3万7000人を突破した。なんと、前年から約10倍も増加している。

 カリフォルニア州では、中国人が不法入国者の3割以上を占める地域があるとの報道も。一例として、3月にメキシコ・オアハカ州の沖合で、米国に不法入国しようとした、中国人が乗ったボートが転覆し8人が亡くなった。まさに命懸けで海外に脱出しようとするほど、中国国内で生活することの閉塞(へいそく)感は高まっているといえるかもしれない。タイ、マレーシアなどへの移住者も増加傾向だ。

 若者の海外脱出も加速している。コロナ禍が落ち着くにつれ、わが国に留学する中国人学生は増えている。また、オーストラリアでは、英語を学びつつマーケティングやファイナンスなどの学士・修士号の取得を目指す中国の若者が押し寄せているそうだ。一部の大学では、既存の学生寮での中国人留学生の収容が難しくなり、施設を増設するケースもあるという。中国人留学生にとって、海外の方が多くの選択肢を手に入れ、自由を享受できるとの意識が強いのだろう。