深刻デフレ、補助金バラマキ…
中国人が海外脱出する背景

 富裕層から一般市民、若年層まで、中国から脱出する人が増加する背景には、なんといっても経済の悪化がある。不動産バブルが崩壊し、民間デベロッパーや、地方政府傘下の「融資平台」(LGFV、資金調達やインフラなどの建設を行う政府系の複合企業)がデフォルトに陥るリスクが高まっている。

 住宅価格の下落も止まらない。5月、主要70都市のうち68の都市で新築住宅の価格が前月から下落した。住宅の需要が回復しないため、地方政府の主要な歳入源だった土地の譲渡益も減少している。住宅、本土株、理財商品などの価値が下落する懸念から、支出を抑え、貯蓄を重視する人は増加し、内需は停滞気味だ。

 5月の労働節(メーデー)の連休中、ゼロコロナ政策で抑えられた需要の反動もあり、中国国内の旅行者数は増えた。ただ、今年の1人当たり平均支出額は、19年の水準を約1割下回ったと報じられた。節約を重視する人は多く、雇用や所得に関する先行きへの懸念が強いと考えられる。

 中国政府は公共事業を打つなど需要の注入を急いでいるものの、今のところ期待されたほどの成果は上がっていないようだ。不良債権を処理し、金融システムの健全性を高める必要もある。わが国の資産バブル崩壊の教訓からも、不良債権処理の遅れは、銀行の収益力、経営体力の低下につながるだろう。

 今後、事態がさらに悪化すると、金融システム不安のリスクも高まる。それが現実になると、デフレが深刻化し経済はますます厳しくなるはずだ。

 一方、現在の中国政府は政府系あるいは民間大手企業の生産を増やす支援策を優先している。すでに生産能力は過剰であるにもかかわらず、補助金などを支給して生産を増やしているのだ。安価な電気自動車(EV)や車載用バッテリー、太陽光パネル、鉄鋼などの基礎資材の輸出を増やし、外需を取り込んで景気の持ち直しにつなげる狙いがあるのだろう。

 しかし、過剰生産能力を膨張させる経済政策が、持続的な回復を支えるとは考えづらい。むしろ、債務問題の深刻化、あるいはEVや半導体などの分野で米欧との対立が一層激しくなる懸念がある。そうしたリスクを感じ、中国から脱出する人が増えているのだろう。