「個性を尊重しろというのは…」柳井氏の忠告

《会社をスポーツと置き換えて考えてみるとわかりやすいでしょう。会社の原理原則や経営戦略というのはサッカーなどのチームの基本戦術と同じなんです。個性を尊重しろというのは、サッカーでチームの基本戦術を守らずに勝手にプレーしますと宣言しているのと変わりありません》

《本来、会社に参加するということは、基本的なことは会社の考えどおりにしますということで、誰も個性を発揮してくれとは言いませんね。チームの基本戦術を理解して、取り決めに則ってボールを相手のゴールに入れるというのが、チームとして勝つということ。勝手にドリブルしたり、攻撃ばかりで守備をしないような選手は、いくら身体能力に恵まれていてもチームが強くなるためには必要ないのです》

《相談者の上司は、会社という組織の中でプレーをするために必要なルールや規範をしっかり把握している人だと思います。あなたは反感を持つかもしれませんが、ルールに無頓着だったり、あやふやだったりする上司より、よっぽど筋の通ったいい上司だと僕には思えるのです》

 それでも、当時の私は柳井氏の言うことに納得したわけではなかった。「基本戦術」など誰も教えてはくれなかったし、「勝つ」の定義も私にはよくわからない。売れればいいのかと聞けば否定するくせに、売り上げが増えれば大喜びするのが経営者というものである。

 そこで気になって、改めて柳井氏の著作を読み返し、発言をくまなくチェックしてみた。その際に、柳井氏のこんな言葉を発見して非常に得心がいったのを覚えている。