TSMC進出の余波で
懸念される「交通網のパンク」

 そしてもう1つ、TSMC進出の余波で懸念されるのが、交通網のパンクだ。この辺りは鉄道空白地帯で、熊本県交通渋滞対策協議会によると、政令指定都市としては全国最多の178カ所もの渋滞スポットを抱えている。熊本市新南部から近見町に至る「熊本東バイパス」は、空いていれば熊本市内に30分で行けるところを、渋滞だと1時間以上かかる時もある(筆者の複数回の実測含む)。地元民からは、「全然バイパスじゃない!」との悪評も出ている。

 また熊本平野の南部にある益城町、御船町、嘉島町なども鉄道が通っておらず、熊本市内につながる「浜線バイパス」は混み合い、ヨコ移動の道路(国道443号など)はどれも貧弱だ。21年に御船町にコストコが開業した際には、全方位からクルマが押し寄せ、周辺道路がことごとくパンク状態になったことも記憶に新しい。

 対策としては、バイパスに集中するクルマを減らし、空港に向かうクルマを市内に入らせないことが挙げられる。有料の都市高速を熊本市の外周から空港まで整備し、熊本市内から主要なインターチェンジを10分で、熊本空港までを20分で移動可能にする「10分・20分構想」をTSMC進出前から計画している。ただ、いまだ調査段階であり、実現にはかなり時間がかかりそうだ。

半導体TSMC進出で「路線価が爆上げ」の熊本県菊陽町、懸念される「交通網のパンク」と移住者のマナー豊肥本線の新駅予定地(写真右側) Photo by W.M.

 他方、JR肥後大津駅と熊本空港を結ぶ空港アクセス鉄道については、熊本県が25年度内にルート案を示す考えを明らかにしている。現在は、JRが建設費の3分の1、残りの県の負担のうち18%以内を国が補助する協議が進んでいる。ただ、空港からの直通列車が乗り入れるJR豊肥本線は単線であり、1日100本の列車が走るものの、午前8~9時の乗車率は三大都市圏並みの135%(22年度)と、輸送能力にかなり限界がきている。この路線こそがTSMCへの鉄道のメインルートとなるため、こちらの対策も必要だ。

 すでに菊陽町内の新駅の整備 (バスロータリー付き)は確定している(27年春開業予定)。後は、市街地化された区間の多さから複線化は難しく、交換駅の増設などでしのぐ他はなさそうだ。

半導体TSMC進出で「路線価が爆上げ」の熊本県菊陽町、懸念される「交通網のパンク」と移住者のマナーJR豊肥本線の交換駅は少ない Photo by W.M.