「ありがとう」は
幸せを呼ぶ魔法の言葉

 主婦のJさんは久しぶりに友人の家を訪ね、ショックを受けた。理由は友人夫婦の食事スタイルである。普段から食事中にテレビをつけない。夫は、あっ、これ、おいしい、と感想をごく自然に述べ、食事が終わると、ごちそうさま、と皿を流しに運ぶ。日常的にそんな様子らしい。

「うらやましくて、何だか悔しくなっちゃった」とJさん。

 Jさんの夫は食事に何の感想も言わない。食事中もテレビをつけ、新聞を広げる。20年以上前からその調子で、文句を言うと「食事くらい、好きなようにさせてくれ。1日働いて疲れているんだから」と言われてしまう。

 妻だからおいしい食事をつくって当たり前、という考え方らしい。

「一言おいしい、とか、ありがとう、なんて言われたら、うれしいのにね」とJさんは嘆く。夫だから、妻だから、仕事だから、それをやって当たり前、という風潮が気になってならない。

 あるメディアで医師の超過勤務が取り上げられた。医師が「一言ありがとうと言われたらほっとするのに」と述べたのに対し、「軟弱だ」と批判が相次いだという。それが仕事だから当たり前ということだろう。

 Kさんは出版社勤務。担当する作家の原稿が遅れ、連日深夜まで仕事となったが、本が完成し上司から「ご苦労、ありがとう」と言われたとき、疲れが軽くなったという。

 やってあたり前じゃんという人が増えた。そんな人だって自分の役割に対し感謝の言葉をかけられたら、うれしいはず。その言葉を求めてするわけではない。でも、自分の行動が役に立ったと思えてうれしくなる。

 最近、ハードワークの1日の終わりに、自分の体によく働いてくれてありがとう、と言ってみる。すると体から、どういたしまして、なんていう声が聞こえてくるように思えるのだ。