「ごめんなさい」で
ほとんどが解決するぞ

「ごめんなさい」と言えない人がいる。Lさんの夫もそんな人で、Lさんは「夫の辞書には、ごめんなさいという言葉がないのです」と言う。

 机の上に置いてあった大事な書類を捨ててしまった夫に文句を言ったら、「そんなところに置いとくからいけないんだ。ゴミと間違える」と一言。台所の流しの横に洗って用意していた夕食用の野菜をひっくり返されたので「気をつけてよ」と言ったら、「暑いのにゴチャゴチャ言うな」と全然論理的でない返事。あらためてふり返ってみると夫が「ごめん」と言ったことはこの30年で1回か2回。

 Mさんの母もごめんなさいと言えない人だ。買い物で頼んでおいたものがなかったので「どこにある?」と聞いたところ、「私だって忙しいんだから」と逆ギレされてびっくりしたそうだ。

 ごめんなさい、と言ってしまえばそれで済むたわいもないことなのに、それが言えない。世の中にはごめんなさいでは済まないこともあるが、だからといって言わずにいたらしこりが残る。その言葉には一種のリセット効果があり、言われればちょっとした失敗は水に流すことができる。

書影『いい気分の作り方 困難な時代の心のサプリ』(毎日新聞出版)『いい気分の作り方 困難な時代の心のサプリ』(毎日新聞出版)
海原純子 著

 LさんやMさんの場合、大事な書類を捨てられたり、せっかく用意した夕食のおかずをダメにされたり、必要な買い物がないといった一次被害に加え、逆に文句を言われて黙って不満をおさえ、我慢してしまった。そのイヤな思いや失望が心の中にたまると、さまざまな症状の引き金になったりする。

 ごめんなさい、と言えない人は小人物である。それを言うことで自分の立場が危うくなるという不安でいっぱいなのである。

 年齢、性別、職業を問わずそうした人は結構多い。失敗したら謝る。悪かったなと思ったときにごめんなさいと言えば、お互いの関係性が悪化しないのは当然のことだ。立場が上になるほど、謝りにくくなる。「偉い人」ほど要注意?