公共の場でのニオイは大迷惑
化学物質過敏症の悩みが急増中

 機内で急に刺激臭がして、子供が泣き出した。何事かしらと振り返ると、若い女性がマニキュアを塗りはじめていたのだ。乗務員にやめるよう話してもらった。

 今度は新幹線。前の席の中年女性がやおらブラシで髪をとかし、これまた強烈なにおいのするヘアスプレーを振りかけたのには呆然とした。狭くて窓の開かない車内ににおいが立ちこめ、目にしみる。これはマナーというより、化学物質に対する意識の低さを表している。

 化学物質過敏症で悩む人が増えている。聞いたことがない病気かもしれないが、アメリカでは国民の約1割がそうだという。比較的大量の化学物質にさらされた後、ごくわずかな量の化学物質が体に侵入すると、自律神経失調や目の痛み、鼻、咽頭などの粘膜刺激症状が出たり、精神が不安定になったり、とさまざまな症状が現れる。

 化学物質過敏症の引き金となるのは、ホルムアルデヒドやベンゼン、トルエン、防蟻剤、難燃材など。ホルムアルデヒドは、いわゆるシックハウス症候群で知られる。アメリカでは、攻撃的な学生と教室の空気の鉛濃度とのかかわりが指摘されている。化学物質は、精神にも影響するのだ。

 現代生活は、化学物質にさらされている。食べ物には添加物が含まれ、周囲の環境には化学物質が大量に使われている。街で化学物質のにおいをかぐこともしばしばある。化学物質過敏症の方には、前述したマニキュアやヘアスプレーのちょっとした刺激でも、換気の行き届かない部屋などでは大変な苦痛になるだろう。

 鼻粘膜の嗅細胞は神経細胞だ。だから嗅細胞の刺激は直接脳に伝達される。たかがにおい、とあなどってはいけない。化学物質のにおいは鼻粘膜を通して脳の辺縁系にも作用する。辺縁系は自律神経を調節する中枢だから、鼻への刺激は全身に影響する。

 現代の都会生活、おいしい空気を増やして、心を和らげることについて考えてみたい。そして週1回くらいは、みどりの多い空気の良い場所で思い切り深呼吸してみたいものである。