美術館へ行くのが好きな人でも抽象画はさっぱり、という人もいるでしょう。しかし、観続けているうちに「おや……?」と、心が何かを感じるときが来るものです。

 好き嫌いはさておき、この新しい感覚というのが人生を豊かにするために大事なのです。要は、未知なるものに触れることに「慣れる」のです。

 英語でジャズを歌う教室を開いている知人からこんな話を聞きました。「歌も英語も絶対無理!」と思っている中高年世代でも、最初はゆっくりと歌い、できなければ繰り返し、それを続ける。そうして慣れていくうちに、どの人もそれなりに歌うことができるようになるといいます。

 その人が仮に60歳であれば、そこで得られた達成感や多幸感は、貴重な成功体験として70歳のステージへ向けた財産となります。

「ダンスなんて絶対無理!」と拒否している方も同じです。ダンスの教室に行ってみると、いろんな世代の方が楽しそうに踊っていますが、じつは中高年になって初めてやってみたという人もかなり多いのです。

 慣れてしまえばたいていのことはでき、そして楽しむことができてしまう。それが人間の可能性というものなのでしょう。

 人生というのは楽しんだ者勝ちです。自分の可能性の枠を先入観だけで決めつけることなく、機会を見つけて積極的に飛び込んでいく気持ちを持ちたいものです。

「不条理とは何か?」を
的確に説明できるか

 知性と教養を支えるのは概念であり、概念とは物事に対する見方です。これが50代で確立している人は、60代になってもその概念を用いることで、どんな場面でも的確な判断を下すことができます。

 正しい選択ができる人は自分も周囲も幸せにしますので、「あの人は知性と教養に富んだ大人だ」という高い社会的評価を受けることになります。

 概念を育むことに役立つのが哲学です。哲学とは学問の一ジャンルというよりは、世の中のすべての学問の根源となるものです。

 たとえば、「不条理とは何か」と問われても、日常生活であまり意識することがないこの言葉の意味を、的確に説明できる人はそう多くありません。

 ところが、哲学を通して考えてみることで、実感しづらい概念も腹の底から理解できてしまいます。