首長竜「ビシャノプリオサウルス」Wikipediaより

ネッシーなどの未確認生物のモデルとして知られ、日本でも親しまれている首長竜。中国では1978年に“首の短い”首長竜が発見されたものの、当時はあまり注目されなかった。ところが、日本人研究者らが発表した論文により、20年以上もの時を経て脚光を浴びることになったという――。本稿は、安田峰俊著・田中康平監修『恐竜大陸 中国』(角川新書)を一部抜粋・編集したものです。

中国で見つかった首長竜
ビシャノプリオサウルス

 プレシオサウルスやエラスモサウルスに代表される首長竜類は、中生代に生息した水棲の爬虫類だ。竜脚類恐竜を連想させる長い首を持つものも多いが、分類学的には恐竜とは比較的遠い生き物であり、どちらかというとトカゲやヘビの仲間に近い。

 とはいえ、首長竜はネッシーなどの水棲未確認生物のモデルとして広く知られている。大長編ドラえもんの映画『のび太の恐竜』や、景山民夫の小説『遠い海から来たCOO』など各種の一般向けコンテンツにしばしば登場することもあり、日本では恐竜に次いで親しまれている中生代の古生物と言っていいだろう。

 日本では一昔前まで、恐竜の化石があまり見つからなかった。対して、1968年に福島県で発見されたフタバサウルス(フタバスズキリュウ)や、北海道の穂別地域で発見されたホベツアラキリュウのように、良好な状態の首長竜の化石が発見される例は多かった。このことも、日本で首長竜の人気が高い理由かもしれない(なお、ホベツアラキリュウの化石発見地の付近では、今世紀に入り鳥脚類のカムイサウルスの全身骨格の化石が見つかった)。

 いっぽう、日本の隣国である中国において、首長竜の化石はそれほど多くは見つかっていない。もちろん発見例はあるが、中生代の中国大陸は陸地だった場所のほうが多いらしく、恐竜をはじめとした陸棲の生き物の化石のほうがよく見つかるのだ。

 だが、化石が少ないことは重要性が低いことを意味しない。そこで紹介するのが、中国の首長竜、ビシャノプリオサウルス・ヨウンギ(Bishanopliosaurus youngi:楊氏璧山上龍)だ。

 実は首長竜は、長い首を持つおなじみの体型のプレシオサウルス類と、首が短いプリオサウルス類に大きく分けられる。

 ビシャノプリオサウルスは、後者の「首が短いタイプの首長竜」である。なんだかややこしいが、これは日本語の訳語がすこし不適切だったことで生まれた問題なので仕方がない。ちなみに中国語の場合、首長竜(Plesiosauria)の訳語は「蛇頸龍」(ヘビの首を持つ龍)なので、この手の認識のズレは生じない。

亡き師匠に捧げた名を持つ
ビシャノプリオサウルス

 ビシャノプリオサウルスの化石が見つかったのは、毛沢東の死からほどない時期である1978年1月だ。四川省江津地区璧山県(現在の重慶市璧山区)鳳凰人民公社に所属する熊永祥たちが、近隣の梓桐人民公社にある団結炭鉱において、道路建設をおこなっていた際に奇妙な石塊を発見した。