日本最大級の住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」(株式会社MFS)を運営する塩澤崇氏が、住宅ローンにまつわるお金の新常識を解説した決定版『金利が上がっても、住宅ローンは「変動」で借りなさい』を5月に上梓した。これから借りる人だけでなく、すでに借りている人が読んでも役立つアドバイスが満載の本書は「もっと早く出合いたかった」と反響を呼んでいる。今回は、「利上げがあるのでは?」と憶測が飛んでいる今月末の日銀金融政策決定会合を前に、今後の金利動向について塩澤氏に伺った。(聞き手/『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者 安達裕哉氏、構成/ダイヤモンド社 根本隼)

7月の日銀会合で「利上げ」はある?ない? 金融プロの“納得の回答”Photo:Adobe Stock

金利は間違いなく上がっていく

――近いうちに、また日銀が利上げするのではないかと言われています。今後の金利の動向について、塩澤さんの見解をお聞かせください。

塩澤崇(以下、塩澤) 間違いなく、金利はこれから上がっていきます。

 そもそも、これまで日銀が超低金利状態を維持してきたのは、金利を抑えてお金を借りやすくすることで景気を下支えし、日本経済を回復の軌道に乗せるためでした。それが達成されつつある今、あえて超低金利に据え置く必然性はありません

 ただ、現時点では、日本経済の景気が急激に上向くとは考えづらいので、利上げのペースは緩やかになると考えています。

――具体的に、どれくらいまで上がるとお考えですか?

塩澤 今後数年かけて、現在の金利と比べて、プラス1%くらいまでは上がる可能性があるでしょうね。

7月の「利上げ」はある?ない?

――日銀は、何をもって「景気が回復した」とみなすのでしょうか。

塩澤 まず、日銀は「賃金」動向を注視しています。日本はバブル崩壊以降の30年間、ほとんど実質賃金が伸びませんでしたが、今年の春闘では大手企業を中心に賃上げの動きがありました。

 この流れが、中小企業にまで波及するのか。そして、国民の消費意欲が強まる兆候はあるのか。日銀はこうした点をウオッチしています。

 個人的には、今の経済状況を踏まえて、日銀は7月に0.25%の利上げをするだろうと予測しています。もし、7月に見送ったとしても10月にはやるでしょう。

――時期・利上げ幅ともに、ピンポイント予測ですね。

塩澤 当てにいっています(笑)。利上げ時期を7月と予測したのは、賃金が上がりつつあること、そして植田総裁や副総裁が、利上げに向けた「地ならし発言」を要所でしているからです。

――金融のプロの方々は、どういう発言から「これは地ならしだな」と分析するんですか?

塩澤 最も注目しているのは、「景気に対する見立て」に関わる発言です。現在の景気が足踏み状態だとみているのか、それとも回復基調にあるとみているのか。「発言のトーン」から、そうした認識をうかがいます。

 もう1つ大事なのは、物価にまつわる発言です。日銀はこれまで、「2%の物価上昇」を安定的に達成するという目標にコミットしてきました。

 この目標の達成度合いについての定性的コメント、たとえば「まだ届かない」と言っているのか、「近づきつつある」と表現しているのか。そうした微妙な言い回しの違いも、「追加利上げ」のタイミングを探るヒントになります。

「為替の動向」は決定的な要因ではない

――日銀が利上げをするのは、円安を解消したいという意図もあるんでしょうか?

塩澤 全くないとは言えませんが、個人的には懐疑的です。もちろん、アメリカと日本の金利差が縮むと、円高に振れるというのは理論的には正しい。

 ただ、現在は日米の金利差があまりにも開きすぎています。日本の金利が0%前後なのに対して、アメリカは5%超です。そのため、日銀が小幅な利上げをしても、この差はほとんど埋まりません。つまり、日銀の利上げが為替に「決定的な力」を及ぼすかというと、そうではない。

 なので、為替の状況よりも景気の回復レベルの方が、利上げをするうえでの重要な判断材料となるはずです。

 日銀の政策金利と住宅ローンの金利との関係については本書にまとめましたが、まずは「今後、金利は緩やかに上がっていく」という見立てを皆さんも持っておいた方がいいと思います。

(本稿は、『金利が上がっても、住宅ローンは「変動」で借りなさい』の著者・塩澤崇氏へのインタビューをもとに構成しました)

塩澤崇(しおざわ・たかし)
株式会社MFS 取締役COO
2006年、東京大学大学院情報理工学系研究科修了(専攻:数理情報学)。同年よりモルガン・スタンレー証券株式会社にて住宅ローン証券化ビジネスを推進。2009年、ボストン コンサルティング グループに入社し、金融機関向けの戦略コンサルティングに従事。2015年9月より、住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」を運営する株式会社MFSの取締役COOとして金融機関提携・オペレーション・事業提携・広報を管掌。全国紙でのコメント掲載やTVへの出演実績も多数。『金利が上がっても、住宅ローンは「変動」で借りなさい』が初の著書。