(2)経済成長のジレンマ

 次に、そうしたすべての企業への投資から良好な運用成果を得るためには、経済全体が右肩上がりで成長し続けなくてはならない。株価が上がるためには、GDPが増え続けなければならないのだ。

 たとえば、TOPIXが上昇するためには、そこに組み入れられている2000社を合わせた売上、利益が伸び続けなくてはならない。全世界株式インデックスが上昇するためには、世界を代表する大手企業を中心に3千社の売上、利益が伸び続けなくてはならない。つまりインデックス運用は、どうしても規模の経済を追い求める宿命にある。

 それは実現可能だろうか。仮に実現できるとしても、そのプレッシャーの蓄積は、気候変動など人類が直面するさまざまな課題を生み続けている。たとえばGDPの成長と、CO2の排出量の伸びの相関は、しばしば指摘されている。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が2021年に公表した第6次評価報告書は、1970年以降、過去2000年にわたり経験したことのない速度で世界平均気温が上昇していることなどを科学的に分析しながら、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と明記している。

 経済成長を追い求めることは、投資のリターンを前取りして、大きなリスクを先送りしているようにも思える。

 そんなことを考えると、「経済規模が拡大し続けることを前提とした投資が、いい未来につながるか」という問いに対する僕の答えは、やはりノーだ。

「社会をよく」しない金融市場の構造

 2024年2月、日経平均株価は、1989年12月につけた史上最高値3万8915円を更新した。1989年といえば、僕が初めて投資の現場に身をおいた年だ。その当時、隣のグループにいた株式の運用者がどんどん値上がりする株価ボードを見ながら「神風が吹いている」と株式市場の熱狂ぶりを口にしていたことをいまでも鮮明に覚えている。そこから投資や資産運用に関わる業務の経験を積み重ね、今年で36年目を迎える。