正直、この仕事が楽しいと思ったことは一度もない。投資に長く携わりながらも、これから先どのような市場環境になるだろうか、お客様の期待に応えることができるだろうか、といつも緊張と不安が入り混じる。世界の経済や金融市場という誰もコントロールできない怪物に対峙(たいじ)しながら、突発的に起きる戦争、予測不能な地震やパンデミックなどの影響を受けつつも、お客様の大切なお金を預かり、増やすという責任を負っているのだから当然だろう。おそらく、他の運用者も同じ心境ではないだろうか。

 GDPで表される実体の経済と乖離した不安定な金融市場は、しばしば経済の混乱を引き起こす。そこには、効率的にお金を増やすためだけの投資は「社会をよくする」とどうしても言えない、金融市場の構造的な問題がある。

 1つには、巨大な金融クジラは、自分の大きな体に合うように住み家である経済という海を大きくしようとする。そのため、資本主義の構造の中心的な役割を担う「会社」に対して、売上・利益・株価を高めるよう常にプレッシャーをかける。

 ここに無理が生じると、環境問題や格差などの社会の持続性を揺るがしかねない問題につながる。金融市場では、株価を高めることが共通目的化しやすく、効率的にお金を増やすことを追求する投資理論が絶対視されることになるのだ。

 また、短期的な利益志向に陥りやすい金融市場の構造が、短期売買やレバレッジといわれる金融取引などの手法により、それらを助長してきた。金融市場には、金融市場そのものを不安定化させる構造的要因を内包する。

 整理すると、次のとおりだ(図18)。

社会問題を誘発するメカニズム
・(1)株価を高めることが共通目的化しやすい金融市場
・(2)投資の効率性だけを追い求める投資理論

金融市場の不安定化を招く手法の発達
・(3)短期売買を誘引する株式市場
・(4)レバレッジという打ち出の小づち