「ある人との別れ際、僕はその気遣いに気づいて感動しました」
そう語るのはアメリカン・エキスプレスの元営業である福島靖さん。世界的ホテルチェーンのリッツ・カールトンを経て、31歳でアメックスの法人営業になるも、当初は成績最下位に。そこで、リッツ・カールトンで磨いた「目の前の人の記憶に残る技術」を応用した独自の手法を実践したことで、わずか1年で紹介数が激増。社内で表彰されるほどの成績を出しました。
その福島さんの初の著書が『記憶に残る人になる』。ガツガツせずに信頼を得るための考え方が満載で、「本質的な内容にとても共感した!」「営業にかぎらず、人と向き合うすべての仕事に役立つと思う!」と話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、著者が感動した「記憶に残った去り際」について紹介します。
振り返らない「ホスピタリティの達人」
僕には、心から尊敬している人が何人かいます。
そのひとりが、リッツ・カールトンの元日本支社長である高野登さんです。
同社のホスピタリティを日本でも実践し、ホテル界の常識を変えた人です。
そんな高野さんとの会食で、僕の常識が覆ったことがあります。
それは会計も終わり、お店を出て別れの挨拶をしているときのこと。「また会いましょう!」と熱い握手を交わすと、高野さんは「僕はこっちだから」と、背中を見せて歩き出しました。
別れ際、サッパリと別れる人もいれば、何度も振り返って手を振ったりしてくれる人もいます。
だから僕も、相手が振り向いたときに寂しい思いをさせたくなくて、見送る際は相手の姿が見えなくなるまで待つようにしていました。
そのときも、僕は「高野さんのことだから、別れを惜しんで、きっと振り向くはずだ」と思い、その場でずっと待っていました。
しかし10秒、20秒、30秒……どれだけ経っても高野さんは振り向かず、そのまま姿が見えなくなってしまいました。
振り返らずに去っていった「真意」とは?
高野さんが振り返ってくれなかったことに、僕は落ち込みました。
でも次の瞬間、隣にいた友人がこう言いました。
「あれが高野さんの気遣いだよ」
そのとき、僕は高野さんの真意に気づいてハッとしました。
もし高野さんが「またね!」と振り返ったとしたら、次に会ったときも、僕は高野さんの姿が見えなくなるまで待つでしょう。
きっと高野さんは、相手をいつまでも待たせたくないと考えていたのです。あえて振り返らないことで、僕たちを気遣ってくれていたのです。
以後は、高野さんが背を向けて歩き出すと、僕も同じく背を向けて歩き出すようにしました。
それが高野さんの気遣いであれば、快く受け取りたいと思ったからです。
大事なのは、あなたが「どうしてあげたい」のか
高野さんが別れ際に振り返らないのは、相手の視点で考えたときに、それがベストだとご判断されているからです。
「別れ際は、相手の姿が見えなくなるまでその場で止まり、見送る」
「別れた後も、何度か相手を振り返って笑顔を見せる」
そういった行為が、マナーと思われていることもあります。「みんなそうしているから」と、無意識でやっていたりもします。ですが、大事なのはマナーを守ることではありません。
あなたが、相手のためにどうしたいかです。
相手の立場で考えて、それでも「してあげたい」と思ったことこそ、自分が大切にしたい価値観であり、あなたらしい「マナーを超えた気遣い」なのです。その振る舞いが、あなたのことを「記憶に残る人」として印象づけてくれます。
(本稿は、『記憶に残る人になるートップ営業がやっている本物の信頼を得る12のルール』から一部抜粋した内容です。)
「福島靖事務所」代表
経営・営業コンサルティング、事業開発、講演、セミナー等を請け負う。高校時代は友人が一人もおらず、18歳で逃げ出すように上京。居酒屋店員やバーテンダーなどフリーター生活を経て、24歳でザ・リッツ・カールトン東京に入社。31歳でアメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドに入社し、法人営業を担当。当初は営業成績最下位だったが、お客様の「記憶に残る」ことを目指したことで1年で紹介数が激増し、社内表彰されるほどの成績となった。その後、全営業の上位5%にあたるシニア・セールス・プロフェッショナルになる。38歳で株式会社OpenSkyに入社。40歳で独立し、個人事務所を設立。『記憶に残る人になる』が初の著書となる。