こうしたなか、研究チームの東洋医学に詳しいメンバーから出たのが、「入れ墨とツボの位置に類似点があるのでは?」という驚きの仮説でした。

 そこで、見つかった61ヵ所の入れ墨の位置と、ツボの位置を照らし合わせてみると、ほぼすべての入れ墨がツボの位置とおおよそ一致していたのです。例えば、背中の腰の近くにある入れ墨は、腎兪や胃兪、三焦兪などのツボ、右胸の下あたりの入れ墨は期門というツボの位置と重なっていました。

 しかし、位置の類似だけでは単なる偶然という意見も否定できません。そこで、研究チームが検証したのは、X線写真やMRI、そして胃や腸の内容物などの分析から得られたアイスマンの健康データです。

 すると、アイスマンは、ひざや足首の軟骨がすり減っており、その影響で腰に負担がかかり、腰痛を患っていたと推測されました。腰の部分の入れ墨とほぼ一致する場所にある腎兪などのツボは、まさに腰痛改善に使われることから、入れ墨とツボとの関係に必然性があると研究チームは考えました。

 また、胃や腸の内容物からは、アイスマンがヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)に感染し、胃を悪くしていたこともわかりました。右胸の下の入れ墨のところにある期門は、胃の調子を整えるときに使われることから、これも必然性があると考えられたのです。

 こうして、研究チームが検討を重ねた結果、「入れ墨=ツボの位置」説が最有力となったそうです。もちろん、決定的な証拠はありませんが、状況証拠は揃っているようなのです。

 皆さんは、どう思われるでしょうか。筆者(山本)は、この説を支持するとともに、アイスマン(ヨーロッパアルプス地方)以外でも、はるか昔には世界各地で同じようなツボを使った治療が大なり小なり行われていたと考えます。

東洋医学のツボの位置と
押すと痛い体の部分の類似

 では、ツボの場所のふしぎに迫っていきましょう。

 体中にある多くのツボが持つ客観的な特徴として、指で押すと痛く感じる部分であることが挙げられます。こうした、押すと痛く感じる部分は「圧痛点」と呼ばれます。