すると、体表のいくつかの場所で血管から色素が漏れ出て、直径数ミリメートルのスポット(小さな点)が出現したのです。これは、先ほど紹介した内臓の痛み信号(ここでは、高血圧と大腸炎による炎症信号)が脊髄を介して別の感覚神経を逆行し、末端周辺(皮膚下)で神経性の炎症が発生したためと考えられています。

 より詳しく説明すると、その炎症の影響で神経末端から分泌されたCGRP(生理活性物質)などのはたらきによって血管の透過性が高まり、色素が漏れ出てしまったからだと考えられるのです。

 実験データを平均すると、1匹あたり高血圧ラットでは7つ、大腸炎ラットでは4つのスポットが見られました。また、すべてのラット(高血圧18匹、大腸炎13匹)のスポットの位置を詳しく調べたところ、高血圧ラットでは、67%が内関、大陵(編集部注/どちらも手首付近に位置する)などのツボと一致し、大腸炎ラットでは75%が衝陽、内庭(編集部注/どちらも足の甲に位置する)などのツボと一致したというのです。

 さらに、研究チームが高血圧ラットに出現したスポットの一部に鍼治療を行ったところ、血圧の上昇が抑えられることが確認できました。同じように大腸炎ラットのスポットへの鍼治療でも、体重減少の改善などが認められました。

 この研究では、東洋医学で古くから考えられてきた、ツボは心身の不調を示す反応点であり、心身の不調を改善する治療点でもある、という特徴を実験的に検証しており、ある一定のツボの正体が、内臓の病態を原因とした神経性の炎症スポットであることを示唆しています。

世界で初めて示された
ツボの「解剖学的な証拠」

 最後に紹介するのは、2021年にNature誌で発表された、世界で初めてツボに特徴的な神経構造があることを精緻に確認した画期的な研究です。