謎の多い人体の「ツボ」。内臓の疾患がもたらす肩や腕などの「関連痛」にまつわる体のメカニズムがツボの正体に関係しているとも言われる。実際、ある実験によってツボの「解剖学的な証拠」も示され、世界中で反響を呼んだ。本稿は、山本高穂、大野 智『東洋医学はなぜ効くのか ツボ・鍼灸・漢方薬、西洋医学で見る驚きのメカニズム』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。
内臓の不調から起きる
「関連痛」と「ツボ」の関係
体の内部(内臓)と末梢(手足など)のふしぎな関係から見えるツボの正体に迫っていきます。
皆さんは、関連痛という症状をご存知でしょうか。西洋医学の診断では、「原因となる場所だけでなく、隣接する場所や離れた場所にも生じる痛み」とされています。
具体的には、心臓への血流障害が原因である狭心症の際に、胸だけでなく左肩周辺に痛みを感じるケースや、肝炎などの影響で右肩が痛くなったりするケースなどが知られています。
でも、どうしてこのような現象が起こるのでしょうか。その秘密は、脊髄にあると考えられています。通常、狭心症が起こると、心臓で発生した痛み信号は、感覚神経を通って脊髄に到達し、脳へと伝わって「(胸が)痛い!」と感じます。
この心臓からの感覚神経がつながる脊髄後角には、左腕(左肩)、胃などからの感覚神経もつながっています。そのため、痛みの信号が別の部位からの感覚神経(狭心症の場合は、左腕からの感覚神経)に伝播してしまうことがあり、関連痛が生じると考えられています。つまり、脊髄が持つ構造的な“エラー”によって、心臓の痛みが肩や腕の痛みとなってしまうのです。
さらに、このような内臓からの痛み信号が脊髄で別の感覚神経に伝播した結果、痛み信号がその感覚神経を逆行して末端に到達し、周辺(皮膚下)で神経性の炎症が起こるという現象も確認されています。
少しアプローチが長くなりましたが、この関連痛にまつわる体のメカニズムがツボの正体に関係しているのではないか、という実験が韓国の研究チームによって2017年に発表されています。
神経性の炎症スポットか?
ツボの正体が見えてきた
実験では、高血圧の症状と大腸炎の症状があるラットが、それぞれ準備されました。研究チームでは、これらのラットの静脈から特殊な色素を注入しました。