足三里(編集部注/膝のお皿から外側に少し下がった場所に位置する)のツボは、足三里──迷走神経──副腎髄質を介して抗炎症作用をもたらす、ツボの中でも特異的な存在でした。そこで、アメリカのハーバード大学と中国の復旦大学の共同研究チームが、足三里のツボにどのような解剖学的な秘密があるのかを詳しく調べました。

 実験は一部の神経細胞の遺伝子を改変したマウスを用いて、オプトジェネティクス(光遺伝学)や、逆行性トレーサーなど、分子生物学の研究で用いられる最新解析技術を駆使して行われました。

 まず研究チームは、脊髄後角と足三里を結ぶ感覚神経を調べ、たくさんの神経線維の中から迷走神経を介した抗炎症作用をもたらす特定の感覚神経を発見しました。その神経は、足三里のツボの深部で多く分岐し、シグナルを受け取りやすい分布構造になっていました。

 さらに、同様の抗炎症作用に関わる感覚神経は、お腹にある天枢というツボにも確認されましたが、その分布密度を比べると10倍も低かったのです。また、この感覚神経を切断したマウスの足三里や、この感覚神経が分布していない部分に鍼通電を行っても、炎症を抑制する効果は見られませんでした。

 つまり、足三里には抗炎症作用をもたらす独特の神経構造があり、ツボの周辺や他のツボ(天枢)とも異なることが示されたのです。この発見は、世界で初めて精緻に示されたツボの「解剖学的な証拠」として、中国をはじめ世界中で大きな反響を呼びました。

 ツボにはまだ多くの謎が残されていますが、こうした最先端の科学的手法によって、他のツボの構造がどうなっているのか、ツボにはどのようなタイプがあるのかなど、その正体が次々と明らかになってくるのではと筆者(編集部注/山本高穂)は期待しています。