新日本酒紀行「松嶺の富士」蔵の入り口 Photo by Yohko Yamamoto

老舗蔵から引き継ぎ再出発!山形の酒米から切れ良く醸す美酒

 標高2236メートル、山形と秋田の県境にある鳥海山は日本海に面した活火山。別名出羽富士や庄内富士と呼ばれるが、松嶺の富士と呼ぶ町がある。酒田市の南東部、最上川右岸にある小さな城下町の松嶺町(2005年に酒田市と合併)で、江戸時代は出羽松山藩の藩庁が置かれた。この町に唯一残る酒蔵が松山酒造で、銘柄はズバリ松嶺の富士だ。創業1828年の老舗蔵だが、7代目の斎藤大輔さんは経営の厳しさと後継者難から廃業を決意。市内で上喜元を醸す酒田酒造の佐藤正一さんがそれを知り、「町から酒蔵をなくしてはいけない」と、2010年に経営のバトンを引き継いだ。

 佐藤さんは社長と杜氏を兼務し、老朽化した麹室を改修。井戸水は純水製造装置で清らかに整え、山形県産酒米の少量仕込みで高品質を目指して再出発。だが、早朝から昼まで酒田酒造で働き、午後から松山酒造という毎日の佐藤さんを周囲が心配し、製造部長の内藤大輔さんと若手蔵人たちが「もっと任せて」と申し出た。二つの蔵で一丸となって酒造りに心力を尽くす。