「親を捨てる」のは自分自身を取り戻す選択肢の一つにすぎない――。そう話すのは『毒親絶縁の手引き DV・虐待・ストーカーから逃れて生きるための制度と法律』の著者Yさん。「日本の戸籍制度と毒親の関係」と「絶縁後の注意点」を聞いた。(取材・文/ジャーナリスト 村田くみ)
毒親を生む
日本の戸籍制度
「法律上、親と縁を切る方法は日本にはありません」
最初に父からの嫌がらせを相談した弁護士に、そう告げられてから約10年が過ぎ、Yさんはようやく父と絶縁を果たした。
世界に見てもまれな日本の戸籍制度は、国民の登録を個人ではなく家族単位で行う。なおかつ父親を中心に「家族は親に従うもの」という規範が根強く残っている。
そのことが「毒親」を生んでいるのではないか。結婚や死亡以外の事由でも、子どもが自分の意思で籍を抜けて新しい戸籍を作れるシステムも、ほとんど周知されていない。そのことが子どもが毒親に苦しめられている原因の一つになっている。
「弁護士や相談する人によっては『分籍』のデメリットばかりを伝えてくる人もいます。例えば、気持ちが変わっても二度と親の戸籍には戻れない、分籍しても戸籍上の親子関係が消失するわけではないなどです。中には、『いつか結婚するとき、なぜ戸籍にあなた一人しかいないのかと勘繰られるかも』と伝えてきた方もいました」
「自分が加害親から離れたいだけなのに、なぜ結婚願望の有無や他人の家族の顔色まで気にしなければならないのか。親から被害を受けた側が、こんなにも大変なプロセスを踏まないと独り立ちすら許されないって、おかしくないですか? 日本の戸籍制度には本当に苦労させられました」(Yさん)